コイツが……あの銀狼なのか?

『見たいでちねぇ? 随分と小さくなったでちが』
『キャウ! キャッフ』

 俺と琥珀の目の前には、ただの子犬にしか見えない銀狼が、尻尾をふりふり俺たちの前でお座りしている。

 その姿はまるで……何って言ったっけ? あのフワッフワの犬。それにソックリなんだが。
 ええと……! そう。ポメ……? ポメラニアンだ!
 あのモッフモフで愛くるしい見た目のポメにそっくりだ。
 可愛いんだが……銀狼だった威厳は全くなくなったな。

 さっきまで圧倒的な存在感を放っていた銀狼が、忽然と消えた訳なんだが、誰もその事を騒いでいない。

 どうやらギャラリー達は、聖印に戻ったのだと思っているようだ。

 魔法師長である爺さん達は、まだルミ野郎の回復に必死で、周りの変化に気づいていない。
 ルミ野郎の脚から、この銀狼の聖印も消えている筈何だがな。

『これはまた面白いことを……』
「らんちゃ!」

 稲荷を抱いた我路がゆっくりと近付いてきた。

「おわっ! 稲荷っ」
 もう邪魔にならないだろうと、我路は判断したんだろう。
 我路が阻止しなかったので、俺の顔に飛びつく稲荷。

『これが銀狼とは……なんとも不思議ですね。きっと消失寸前だったのでエネルギーの関係で小さくなってしまったのかも知れませんね。私達のように、常に乱道様の魔力を得られる訳でもないので』

 我路はポメっじゃなかった、銀狼の頭を優しく撫でながら、俺に教えてくれる。

 そうか、琥珀の力で銀狼に俺の魔力を送ったが、銀狼(コイツ)は俺の召喚獣じゃないからな。

「なぁ我路? 銀狼はもう召喚獣じゃないのか?」
『今はそうですね……ですが。私にも理解し難いのですが、力を取り戻すと召喚獣に戻れると思います。もちろん琥珀様のお力が必要になりますが』

 なるほどな。我路曰く今は魔力が無く弱っているから、この可愛いポメラニアンの姿なんだとか。
 魔力が回復したら、銀狼に戻る。なら良かったよ。
 この姿も可愛いけどな。

 銀狼に目を向けると、琥珀と稲荷と一緒に楽しそうに走り回っていた。

「はははっ楽しそうで何よりだ」

 そんな時だった。

「なぁああああああああああああ!?」

 白髭の爺さんの奇声が響き渡る。

「なんだ?」

 皆が一斉に爺さん達に注目する。

 どうやら、レミ野郎の脚を見て絶叫したらしい。
 やっと銀狼が消えた事に気付いたみたいだ。

 レミ野郎も回復魔法のおかげで意識が戻ったのか、自分の足を見て落胆している。

 まぁ俺からすれば自業自得だけどな。
 今までさんざ人の事を馬鹿にして来たんだ。
 どうだ? ポンコツだと蔑み、下だと見下していた奴に、全てを壊された気分は?

「…………はぁ」

 なんだろうな。やり返せたのに、全くいい気分がしねぇ。

 沢山集まっていたギャラリー達は、召喚獣も消え、もう見所は終わったと思ったのか、何とも言えない表情で帰路について行っている。
 勝負の結末が、想像していたものと違ったから、納得がいかないんだろうな。
 皆で召喚獣にフルボッコにされる俺を見たかったんだろうしな。

 まぁ良い。これで終わりだ。

「ん? なんだ?」

 レミ野郎の周りに居た爺さん達が全員、俺の方をじっと見ている。

「え?」

 なんだ? 

 爺さん達が俺に向かって歩いて来た。

 はぁ……今度は何を言うつもりだ?