『らんどーちゃま? あの狼の紋は奪わないでち?』

 ルミ野郎が恍惚とした表情で、詠唱を始めたにも関わらず、俺が全く微動だにしないから、琥珀は何でだろう? っと首を傾げ俺を見てきた。

「ん? ギャラリーもいる事だしな? 銀狼とやらを見せて貰おうかなと思ってな?」

『ふぅん? らんどーちゃまがそう言うなら……まぁ。ワレはどっちでも良いでちがねぇ……』

 琥珀は少し納得のいってない顔をするも、『まぁ? どんな奴もワレの敵じゃないでち』っとドンッと胸を叩いた。
 まぁ正しく表現すると、ボフッとなんとも言えない音がしたんだが。

「おっ!? ルミ野郎の紋が光を増した」
『むむ? そろそろ召喚獣の登場でちね?』

 次の瞬間、俺達の前に三メートルは優にある、銀色の毛並みをした狼が威風堂々と立っていた。

「「「「ウオオオオオオオオオ!!!」」」」
「「「「召喚獣様!!」」」」

 召喚獣の登場に、痺れを切らし待っていたギャラリー達は大興奮。

「ふははははっ! これでお前らは終わりだ! 銀狼(コイツ)を見てまだ余裕でいられるかな」

 ルミ野郎は銀狼の横で歓喜の高笑いをしている。
 まるで自分が勝負に勝ったかのよう。

『これは……酷い茶番劇ですね』
「我路?」
「らんちゃ!」
『稲荷様。落ち着いてくださいね』

 稲荷を抱いた我路が呆れ気味に、俺の隣へと歩いて来た。稲荷が俺の所へと必死に飛びついて来ようとするのを、平然と阻止している姿がなんとも我路らしい。

「まぁな、だが俺も長引かせるつもりはねーよ。ギャラリー達も、召喚獣を見て満足しただろうしな? もうこんなクソつまんねー茶番劇に、これ以上付き合う義理はねえ」
『さすが乱道様です。では稲荷? 私達は後ろで見物していましょう』
「おう! 稲荷を頼むな」

 我路は綺麗な身のこなしで、後ろに下がって行った。

『さてと、召喚獣様のお手並を見せてもらおうじゃねーか』

 おおっとその前に、魔法の確認と!
 俺は急いで魔法書を取り出し、使えそうな魔法をパラっと見ていってると……!?

「……なんだ? 肌寒い?」 

 さっきまで暑くて焼けるような日差しが照りつけ、額から汗が流れてきていたのに。
 冷たい風が流れてくる。
 二つの太陽は、今も燦々と照りつけているのに。

 これは銀狼が冷気を放っているのか?

『なるほど、あの銀狼は氷魔法を使うタイプでちか』
「氷タイプ?」
 
 琥珀に言われ銀狼(ヤツ)をよく見ると、歩くたびに足元に氷の道がパキリパキリっと広がっている。

 なるほどな、氷を使うのか。
 なら……それに勝つには火だよな?
 ええと火……炎……。
 魔法書をめくっていると。

『らんどーちゃま来るでち!』
「ん?」
 琥珀の掛け声と同時に、銀狼の口から尖った刀のような無数の氷が俺達目掛けて飛んで来た。

「うおっ!? 《ファイヤーウォール》」

 俺の前に、高さ五メートルはある炎の壁が出来上がる。

「ふう……間一髪だったな」
 魔法書さまさまだな。
『らんどーちゃま凄いでち! 氷の刀が、みんな炎の壁で溶けていってるでち!』

 琥珀は炎の壁が面白いのか、近くを楽しそうにぴょんぴょんと跳ねる。
 あ……琥珀よ? それ以上近付いたら自慢のふわ毛が……!

『あちゃっ!? ほわちゃっ! ちちっちぃ!?』

 あーあ……。言ってる側から……
 火の粉が琥珀の頭に落ちて、火を消すために頭をポプポプと必死に叩いている。

「あちゃ~……おでこがちょっとだけハゲちゃったな」
『ワレの美しいふわ毛が……ぐぬぬ。銀狼許すまじ!』

 琥珀は怨念の籠った目で、ジトッと銀狼を睨む。

 ……琥珀よ? そのハゲに銀狼は全く関係ないと思うがな?

『らんどーちゃま! アイツを焼き狼にするでち!』
 琥珀が鬼気迫る形相で俺に指示をする。
『ワレの仇を討つでち!』
「おっおお……」

 いつの間に仇討ちになったんだ?
 琥珀よ?

「よーっし!」

 さてと……。

 ここに居る皆様に、俺が古代魔法を使えるってのが嘘じゃない事を、証明してやりますか。




《インフェルノ》





 俺はSランク魔法を詠唱した。