男が俺達に向かって、何かを言った。

《kembali》

「ん? 九尾の狐……なぜこちらに来ない?」

 男は不思議そうに首を傾げている。
 何を言ってるんだ? こちらに来ないって……稲荷がそっちに行くわけないだろ?
 こんなに嫌がってるんだぜ?
 稲荷は男に向かってずっと「がううっ」っと歯を剥き出しにして睨んでいる。 

《kembali》

 謎の言葉を何度も必死に言っている。
 なんだ? 魔法? でも何も起こらないしな。


「まっまさか本当に紋が!? 消えたのか!?」

 男がこっちにズカズカ歩いてきた。

「おいそこの男! その九尾の狐の紋を消したのか?」

 稲荷の紋!? あの辛そうしにていた紋のことか?

「あんな痛そうな紋は、俺が消してやったよ!」

「はぁぁ!? 消した? どうやって消したと言うんだ」

 消したと言ったら、大袈裟に男が動揺する。

 そんな驚くことなのか? 
 これは無闇矢鱈に、ペラペラと下手な事を言わねーほうが得策だな。

「どうやってっ……? お前らに教えねーよ」

 男と二人であーだこーだ言ってたら。

「おいおい!? 何をやっているんだ? さっさと九尾の狐を回収しろ!」

 もう一人の男まで、ドラゴンから降りて来た。

 男達が降りても、ドラゴンは大人しくしている。
 指示がないと、何もしないのか?

 ドラゴンって、あんな犬みたいに言うことを聞くもんなのか?

『これはアレですね。稲荷様の時と同じく、紋の力でドラゴンを操っていますね』
「我路……そんな事分かるのか?」

 俺がそう聞くと、我路は眉尻を下げフッと優しく笑う。

『私に分からない事などないですよ』
「そ……そうか。それは頼もしいな」

 なんだこの溢れ出るイケオジの魅力は!
 こんな時、琥珀なら「ワレは天才でちからぁ」ってドヤるんだろうな。
 何だろう、今は琥珀のドヤりがちょっと恋しい気分だ。

「ちなみにあの紋を消したら、稲荷の時みたいに、アイツらから解放されるのか?」
『そうですね。解放はされますが、野生のドラゴンになるだけでしょうね。アイツらは低ランクドラゴンなので、知性もないようですし』
「そうか……どのみち討伐しないといけないのか」
『まぁ乱道様でしたら、余裕ですよ。私の力をお使いください』

 我路は右手を心臓に当て、軽く頭を下げる。

「おっ……おう! 頼りにしてるぜ」

 だから魅力がダダ漏れだって……俺が女ならもう惚れてるな。
 イケオジ恐るべし。

「さぁ、その九尾の狐をさっさと渡せ。お前のような奴には勿体無い。そいつには利用価値が、たっぷりあるからな」
「そうだ! 九尾の狐には金では買えない、貴重な利用価値がな。ククク」
「さっさと渡さないと、あのドラゴン達の餌にするまでだ」

 男達が稲荷の事を物の様に言う。かなりイラッとするな。

「あのな? 利用価値とかそんなのどうだって良いんだよ! コイツは俺の大切な仲間だ!」
「はぁ? 仲間? ははははっ馬鹿なことを言う男だ。すぐに引き渡せば、命は助けてやったのにな」

 男が馬鹿にしたように笑う。

「わっ?」
 稲荷が俺の頬をペロッっと舐めた後、いつもの様ににちゃあっと笑う。

「なちゃま! なちゃま!」

 仲間って言いたいのか? そうか嬉しいんだよな稲荷。
 稲荷の頭をくしゃくしゃと撫でてやる。

「よし琥珀出て来てくれ!」

 そう言うと琥珀のタトゥーが光り輝く。
『テッテレ~琥珀様の登場でち!』

 琥珀は両手をバンザイし、足をクロスさせている。かっこいいでち? って表情を添えて……ったくまた変なポーズで登場しやがって。

「琥珀、稲荷を任せた」
『稲荷をでちか? 任せるでち』
 
 稲荷は何となく理解したのか、すんなり琥珀に肩車されていた。

「じゃあさっさとコイツらを殺って、九尾の狐を連れて帰るか」
「そうだな。まさかこんな簡単に会えるとは、俺たちラッキーだったな」

 男が手を上げて、ドラゴンに何かを言った。

 次の瞬間、ドラゴンが一目散に俺目掛けて突進して来た。

「我路! 頼んだぞ」
「はい! お任せ下さい」

 我路が日本刀の姿へと変化し、俺の手へとフワリと飛んで来た。

 日本刀からもの凄いエネルギーを感じる。
 これが我路の力? すげえ。