城下町の街道を、稲荷を抱きながら歩いていく。
 あんまりキョロキョロしたらダメなんだが、つい町の景観や色んな種族の人々を見てしまう。
「うゆ?」
 その気持ちは稲荷も同じなのか、腕の隙間からひょこっと顔を出し、不思議そうに見ている。

 街道の真ん中の道を馬車が勢い良く行き交っている。
 なんだろう古い映画のワンシーンみたいだ。
 魔法や召喚って不思議な力があるのに、化学の力がないからか、この世界の生活基盤はかなり地球より遅れている様に思う。

 人を観察していると、獣人にも二種類あるようで、琥珀みたいな姿の獣人がいることも分かった。
 姿はまんまライオンなんだが、二足歩行で服を着て歩いている。
 なんとも不思議な感じだが、誰も注目していないので普通なんだろう。
 これなら琥珀にも服を買ってやれば、獣人として見てもらえるかもだな。
 ちょっと見た目のバランス悪っ……ぬいぐるみっぽいのは、仕方ないとして。

「おっ? これって服屋じゃ?」

 ショーウィンドウに鞄や靴に服などが並べられている、一軒の路面店が目に入る。
 
 子供の服があるのかは分からないが、入って見るか。

 ドアを開けると、カランっと鐘の音が店内に鳴り響く。
 すると店内にいた客が一斉に俺に注目する。ちょっと勘弁して欲しい。

 これは……女性服のお店なのか? 周りには女性客しか居ない。
 明らかに男の俺は異質だ。ジロジロと変な目で見られているのを感じる。

 これはちょっと恥ずかしいぞ。

「何か探されているんですか?」

 俺が立ち尽くし困っていると、一人の女性店員が話しかけて来た。

「おおっ助かったぜ。女性客ばかりでどうしようかと思ってたんだよ。コイツに合うサイズの服はあるか?」

 俺は抱いている稲荷を女性店員に見せる。
 稲荷が頭をブルルっと横に振ったせいで、隠していた耳が出てきた。

「まぁ! なんて可愛いんでしょう。桃色髪の獣人なんて、初めて見ましたわ。この子は何獣人ですか?」

 何獣人? 原則的には獣人じゃねーんだが。困ったな。九尾の狐だから……。

「…………ええとだな? 狐獣人だ」
「狐獣人にこんな珍しい見た目の子がいるんですね。大体の狐獣人の毛色は、赤茶色ですので」

 そう言って店員は、稲荷の頭を触ろうとするが、それを手で薙ぎ払う稲荷。
「がう!」
 どうやら触られるのが嫌なのか、俺にしがみついて来た。

「稲荷? 大丈夫だ」
 俺は稲荷の頭をそっと撫でてやる。
「うゆっ。らんちゃ……」

 こうすると、気持ちよさそうに目を閉じる稲荷。
 どうやら撫でられるのが好きみたいだ。

「コイツちょっと人見知りだからな。とりあえず、早く服を見せてくれないか?」

「はぁい。……ではこちらについて来てください」
 店員は稲荷に触れる事が出来なくて、少し残念そうに肩を落とす。

 案内された奥のコーナーに子供服が置いてあった。
 数はそんなに無いが、色んなタイプの服が置いてある。
 どこに着ていくんだ? って豪華なドレスから、見慣れたTシャツにトレーナーもあるんだが、どこか異世界っぽい。

「稲荷お前の服だぞ? 欲しい物あるか?」
「ほち?」

 俺は稲荷を下ろし、選ばせて見た。
 稲荷は何の事だか分かってない様だが、マントを引き摺り店内を歩く。
 すると一枚の服を取って来た。

「うゆ!」
「えっ? これが欲しいのか?」
「ほち!」
 稲荷は頭を上下させる。欲しいの意味分かってるのか?
 持って来た服は何だろう? 巫女服みたいな白い変わった形の服。ちょっとサイズが大きい様な気もするが……。

「ほち!」
 稲荷が欲しいと何度も言う。分かったよそれがいいんだな。

「ええとこれを下さい」

 俺は店員に稲荷が握っている服を指した。

「まぁ! こちらの服は異国の服で、最近入荷したなかりなんですよ! お目が高いですわ。でもサイズが少し大きそうなので、すぐにお直しさせていただきますね」

「がう!」

 そう言って店員が稲荷から服を取ろうとしたら、稲荷が服を渡さない。
 よほど気に入ったのか?

「稲荷? これはお前のだから? でも大きくてサイズが合わないから、お前のサイズに直してくれるんだよ? だから渡してくれるか?」

 俺は身振り手振りをしながら必死に伝える。
 すると伝わったのか、稲荷は俺に服を差し出してくれた。

「あい! らんちゃ」
「ありがとな稲荷」

 意外と言葉を理解するのが早い。稲荷は賢いのかもな。
 店員が直してくれている間に、他にも数点服を選びカウンターに置いていく。
 稲荷はあの服以外に興味を示さなかったので、残りの服は俺が適当に選んだけど。

 後は琥珀が着れそうな服も買ってと。アイツの体型ちょっと特殊だからな……合うサイズあるか? 
 そうだ。ベストならサイズが合わなくても着れるだろ。
 パンツも尻尾が出せる獣人用ってのを売っていたので、それも買ってと……。
 気がつくとカウンターの上は俺が選んだ服で溢れていた。

 服を直して戻ってきた店員は、大量の服がカウンターに並られていたので、目をまん丸にして驚いていた。
 まぁ流石に買いすぎかもだが、しょっちゅう買いに来れないかもしれねーからな。

 あまりの服の量に、本当に支払えるの? っと不審に見られたが、金貨を出してお釣りはいらねーっと言うと、店員総出でニコニコと送り出してくれた。
 分かりやすくゲンキンな奴らだ。

「うゆ!」
 稲荷は自分サイズに直してくれた服を着て、俺の回りをクルクルとご機嫌に走り回っている。

「らんちゃ!」
「はいよ」
「らんちゃ! らんちゃ!」
「はいはい」
「らんちゃっ!」
「ははっなんだよ?」

 稲荷が足に抱きつき俺の名前を連呼する。
 よほど嬉しかったんだな。

 変わった服が好きとか、幻獣族ってのは不思議な種族なんだな。

 さぁ次は冒険者ギルドに行って身分証を作ってもらうぞ!