「はぁ~っ。さすがにもう食えねぇな」

 俺はゴロンっと寝転がる。
 夜空には星が燦々と輝き、大きくて丸い月みたいな星が見える。色はほんのり紫色をしているから、月ではないんだろうが、少し日本の夜空を思い出す。

「ふぁ~あ……」
 今日は色々ありすぎて、もう体力の限界だ。

『らんどーちゃま、このまま寝たら風邪ひくでちよ?』

 琥珀がテチテチと歩いてきて俺の前に座る。
 その体はふわふわしている。

 琥珀がクリームでベッタベタだったので「もう一回水浴びした方がいいな」って言うと、「綺麗になってくるでち」っと湖に走って行った。幼子も琥珀の後をついて行き、二人仲良く水で遊んでいた。
 ちょっと前までケーキの取り合いしてた癖に。
 いつの間にやら仲良くなっていた。面白い二匹だ。

 水浴びの後、ビショビショで戻ってきたもんだから、幼子の体を拭いてやろうかなと思ったら、琥珀と同じように体をプルプルと震わせて水を切っていた。
 そんな所は九尾の狐って感じだな。
 幼児の姿をしているから、つい心配になるが、本来の姿は俺より遥かに強いんだ。
 そこまで心配する必要もないのかもな。

 幼子は遊び疲れたのか、マントに包まりスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。
 俺も寝るか。
 確か大きな布があったよな? 
 それを下に敷いて寝よう。見た感じ国旗かもしれんが、まぁいいだろう。あんなクソ王国の国旗だ。

 明日は野宿も出来るよう色々な夜営道具の購入も必要だな。

 俺は布を広げて、琥珀をぎゅっと抱きしめる。
 ふわふわの抱き心地に、一瞬で深い眠りに入った。



★★★


「…………ん。眩しっ」

 強い日差しが俺の顔を照らす。

 よく寝たなぁ……ん? 

 何でコイツが俺の腕の中にいるんだ?
 いつの間にか俺は、幼子と琥珀を抱いて寝ていたようだ。
 幼子は少し離れたところで一人寝ていた筈なのに……?
 いつの間に俺の腕に中に入ってきたんだ? 全く気づかなかった。
 スヤスヤと気持ちよさそうに寝てやがる。

 琥珀と幼子をそっと置くと、俺は立ち上がって体を伸ばす。

「んん~っ!」

 今日は街を探索して色々と購入しないとだな。
 宝物庫にあった地図を見たら、この城のすぐ近くに城下町があるみたいだしな。
 そこで色々と購入しよう。

「よしっ! 準備すっか」

 俺は湖で顔を洗うと、パンと昨日の残りの肉をアイテムボックスから取り出し食べた。

 ……米が食べたいなぁ。

 この世界にもありそうなんだがな。食材などを見ると、俺がいた世界と遜色無い気がするし。
 違う国に行けばあるのかもな。
 この国には良い思い出が無いからな。さっさと出て行きたいところだぜ。

 パンを食べていると、いつの間に起きたのか、幼子が俺の前に座る。

「ん? これが欲しいのか?」

 俺がそう言うと「うみゃ!」っと頭を上下に振る。

 食べ物の事を旨いって言うんだと、勘違いしちまったのかも。

 パンをアイテムボックスから取り出し。渡してやると旨そうに食べていた。
 九尾の狐ってなんでも食うんだな。

 さてと……城下町に向かうとするか。

「琥珀ー! 起きろ? もう行くぞ」

『……むにゃ? はいでち』

 琥珀は目を擦りながら、テチテチと歩いてきた。

 あの九尾の狐はここでお別れだな。
 多分この森に住んでるんだろうし、連れて行くわけにもな。
 それに……
 幼子ましてや謎の種族を、どう扱って良いのか俺には分からないしな。

 俺はパンを食べている幼子に肉を渡す。

「じゃあな? この肉もあとで食えよ?」

「んゆ?」

 幼子に手をふり、地図を片手に歩いて行く。
 
 少し歩くと、ジャケットの裾を琥珀が引っ張り出した。
 引っ張られると微妙に歩き辛いんだが。

「琥珀なんだ?」
『なんでち?』

 引っ張られてる方とは逆の方から、琥珀がひょこっと顔を出す。

「え?」

 じゃあ引っ張ってるのは……?

「うゆ?」

 振り返ると、にちゃあっと笑いながら、マントを巻いた幼子が、俺の裾を引っ張っていた。
 
「お前!? ついて来たのか? 困ったな……」

「うみゃ!」

 幼子は俺を見ながら嬉しそうに笑う。
 俺がどうしたものかと困惑していたら。

『らんどーちゃま? どうやらコイツはワレらと一緒にいたいみたいでちよ?』

 などど琥珀がとんでもない事を言い出した。

「琥珀! お前っコイツの言葉が分かるのか?」

『勘でち!』

 琥珀はドヤァ~っと踏ん反り返る。
 なんだそれ! 動物の直感ってか?

「らんちゃ!」
「えっ?」
『ほらぁ? らんどーちゃまを呼んでるでち! ね?』
「うゆ! らんちゃ!」
 幼子はそうだと言わんばかりに、頭を上下しニコニコ笑う。

「…………はぁ。まじか」

 俺は自分の頭をクシャクシャと掻いた。

 ———まぁいいか。これも何かの縁だな。

「よろしくな」
「うゆ! らんちゃ」

 幼子がニカッと笑う。
 ったく。呑気な顔で笑いやがって。

 俺の仲間に不思議な種族が増えた。