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「葵、あなたまた塾をサボったんですって? どうしてお兄ちゃんのようになれないの?」
「…………」
「ちょっと聞いているの? 返事くらい……って、待ちなさい!」

 休日のある日、玄関で母親の小言を振り切って家を出た。
 両親はカメラを持っている僕のことを嫌っている。昔はもう少し家族仲は良かったと思う。特にいつも優秀な成績を収めていた兄がいれば、いつも笑顔で溢れていた。
 当然のように僕も兄には憧れていた。あの人のようになりたいと思った。兄を尊敬していたからこそ両親の期待に応えなければと、できることはすべて打ち込んだ。
 結局、それが実ることはなかったけれど。

 飛び出すようにして家を出た僕は、不意に脳裏に浮かんだ惨めな自分を振り払うように足を速める。
 そうして歩いてきたところで足を止めたのは、どこにでもあるような踏切だった。
 天気は快晴。太陽の日差しが眩しく、線路の脇には満開に咲いたひまわりが並んでいる。周囲に手入れされた様子がないから自生したのだろう。それが逆によく映える。
 リュックからカメラを取り出すと、踏切に向かってカメラを構えた。
 ファインダーを覗いてピントを合わせると、自分のタイミングでシャッターを押す。数枚撮り終えて気が抜けたその瞬間、僕は目を疑った。

「……え?」

 踏切の真ん中に、誰かいる。
 まさかと顔を上げると、そこには誰もいない。見間違いだったのだろうか、もう一度ファインダーを覗くと、確かに少年らしき人物の後ろ姿が見えた。
 どこかで会ったことがあるような、懐かしさを感じるのに思い出せない。

「あなたは、一体……」

 ファインダーを覗いたまま呟くように訊ねると、彼は振り返ろうとした瞬間、スッと消えてしまった。
 周囲を見渡したが、やはり誰もいない。彼の立っていた場所に駆け寄ると、ひまわりの花びららしきものが一枚、ひらりとレールの溝に落ちていった。
 ふと頭に浮かんだのは、萌先輩が見ているあのアカウント。

「……まさか」

 もうすぐ電車がくることを告げる警報機が鳴ると、僕は慌てて踏切の外に出た。電車が横を通り過ぎる中、透明少年のアカウントを確認する。
 投稿された写真にうっすらと写るのは、僕がファインダー越しに見たあの少年とそっくりだった。