「――透明少年って、本当に幽霊なのかな?」

 三カ月ほど前に盛り上がった透明少年の話題がようやく日常の一部に溶け込み始めた頃、写真部の部室で、部長の萌先輩がスマホをちらつかせながら問う。
 表示された画面には、例の透明少年のアカウントが表示されている。もう誰も気にしていないのに、先輩は未だにチェックし続けているらしい。
 そんな彼女に問われた僕は、愛用している一眼レフカメラを手入れしている真っ最中だ。気が散るから構わないでと、数分前に伝えたつもりだったのに。

「先輩、暇ですか?」
「暇だから聞いてるの。葵ちゃん、構ってくれないから」
「ちゃん付けはやめてくださいって、言ってるじゃないですか」

 ぶっきらぼうに返すと、先輩はいつも拗ねた顔をする。年は二つも上なのに、可愛らしい顔つきからにらまれても怖いとは思わない。
 それを繰り返しているうちに飽きてきたのか、先輩はまたスマホに目を落とした。それを見届けて、僕はまたカメラの手入れに戻る。

「というか、話をそらさないでよ。葵ちゃんはどう思う?」
「どうも思いませんよ。何ですか急に」
「透明少年、本当に幽霊だと思う?」

 先輩を横目で見る。スマホの画面に向けられた視線はどこか泣きそうだった。

「どうしてですか?」
「んー……なんとなく? もしこれを投稿しているのが幽霊なら、私たちと同じように生きていたのかなって思っただけ」

 萌先輩は半年ほど前に踏切である事故に遭遇した。恋人が子供を助けるために遮断棹が下がった踏切に飛び込んだ。幸い命は助かったが、昏睡状態のまま、目を覚ます気配はない。
 それ以来、先輩は「透明少年のアカウント」に投稿された写真を見ると悲しそうな顔をする。そんなに辛いのなら、見なければいいのに。

「信じませんよ。ただの偶像にしかすぎません」

 自分でも冷たいことを言ったと思う。
 幽霊なんて得体のしれないものが写り込む心霊写真が、人の興味をそそらないわけがない。
 ただ、これはあくまでSNS上での話。
 加工されたものが投稿された可能性だって十分にある。だからきっと、日常に疲れた人が非日常を探すために作り上げた偽物なのだ。物珍しいものに目を向けるのは人間の道理であって、何も特別なことではない。
 僕の回答に納得したのかは定かではないが、先輩は「そっか」と小さく呟いた。