「見つけたッ! アイツが俺の最後の獲物か!!」
池の中を泳ぐ、全長三十センチほどの蒼白銀の魚。
細身だが、身が引き締まり実に美味そうだと、熱で熱いのどを鳴らす。
『主よ、一つアドバイスを。ルアーをヤツの目前へ投げてはいけません。特にあの魚は特殊です。警戒し、二度と同じルアーを食うことはないでしょう』
棒っきれにそう言われ、その意味を理解する。警戒心の強い魚は一度でも恐怖を感じると、ルアーはむろん、生餌すら食べない。
特にあの獲物はそれが激しいらしく、恐怖を与えると二度と食わない。ならやる事は一つだ。
だから「了解だ、任せとけ」といいつつ、木の棒を強く握りしめ「行ってこおおおおい!!」と黄金のルアーを放り投げる。
ピッチングと呼ばれる手法でルアーを左手に持ち、棒っきれを下に向けて、振り払うようにルアーをキャストする。
低弾道で伸びながら、蒼白銀の魚へ向けて飛んでいく黄金のルアー。
やがてヤツの目前に着水した事で、棒っきれが声を張り上げる。
『ッ!? な、何をしているのですか貴方は!! もう二度とあの魚は食いませんよ!!』
そう棒っきれが叫ぶと同時に、〝理〟が無情にカウントダウンを始める。
どうやら残り四十秒らしいが、それだけあれば十分だ。
さらにルアーを激しく動かし、水面を波立たせた。
「大丈夫だ問題ない」
『何を言っているのです! ヤツ意外の魚も全て散ってしまったではないですか!!』
「そう、そこが狙い目だ……いいか、棒っきれ。魚の習性を見極めろ。こんなふうに、な?」
棒っきれを小刻みにシェイクし、蒼白銀の魚の横へと誘導させる。
当然ヤツはそれを捕食するどころか、距離が離れてしまう。
『ほら、もう興味が無くなった! 捕食する気がないのですよ!』
「だろうな……が、コイツならどうだ?」
『何を言って――ッ、まさか!?』
棒っきれが驚くと同時に、蒼白銀の魚がルアーへと突進してきた。
それを棒っきれを動かして躱し、さらに水深が浅い場所へとルアーを誘導。
そこにある岩の裏側へとルアーを潜らせて、そのまま待機させ静かに沈ませる。
「そう、そのまさかだ……蒼白銀の魚は極度の臆病であると同時に、その習性は守りにある。こいつは縄張り意識がとてつもなく強い。だからその石の周辺だけ、他の魚が寄って来なかったのさ」
ひと目見た時から分かった。あの独特な動きは、縄張り意識が強い鮎にそっくりだった。
だから俺は賭けた。ルアーを食わせるには、何投か投げなくてはいけないこともある。
それではタイムオーバーだ。だからヤツの闘争本能に賭けた。つまりヤツの縄張りに入った魚を追い出す習性に。
「水圧の変化を感じる……近づいて来ている……あと一メートル……三十センチ……射程内……ニ、一、フィィィィッシュッ!!」
ここから見れば岩の裏だが、棒っきれのスキル〝人釣一体〟で水圧の変化を感じ、さらに蒼白銀の魚がルアーへとアタックした瞬間を感じ、同時に透明な針をヤツのアゴ先へと突き刺す。
これまで感じたことのないルアーから伝わる振動と、蒼白銀の魚の動きが手に取るほどに分かる感覚に驚く。
「くああああッ! なんつぅ引きだよ! あの魚体でこの引きとか異状すぎるぞ!?」
『た、たしかにおかしいです。この引きはメーターオーバーの大物クラスですぞ!?』
「もう少し棒っきれに粘りがあればあああッ!」
ほぼ曲がらない棒っきれのスペック。それは仕方ない、ただの棒なのだから。
カウントダウンも残り三十秒をきった。焦りがもれるが、棒っきれが鋭く叫ぶ。
『主よ! 今の貴方の目には棒に視えるかも知れません。が、私は貴方の半身だと言うことをお忘れなく!!』
「そうだったな。もうお前が俺の一部だと言うのは分かる」
〝理〟に無理やり融合させられた時から分かる。
この棒っきれは俺の相棒なのだと。だからこそ信じる、コイツがWSLであると。