『ほら、最後に〝正確にエモノを具現化してゲットする〟とあるでしょう?』
「そうだな……あ、そうか! だから俺は好きなように形に出来るのか!?」
『そうとしか考えられませんね』

 と相棒はいいながら続きを話す。
 どうやら〝スキル:器用貧乏〟は本来ならレベル5で止まり、次の開放まではかなりの経験が必要となるらしい。

 そして開放されると貧乏が取れて〝器用〟となり、最初よりはまともになる程度だという。
 じゃあ今の〝変態的な器用さ〟とはなんなのか?

 それは相棒すら初の事であり、聞いたこともないという。
 おいおい、スキルの管理者として大丈夫か?

 さらに俺がさっきヤシの木実を自然に取った事も、実は驚いていたという。
 確かにごく自然にルアーでヤシの実を取り、それを好みの形に具現化したのだから。

『……なにか失礼な事を思っていませんか?』
「イエ、ベツニ」
『まぁいいでしょう。とすれば謎は深まりつつも、一応は理解できました』
「よし、じゃあ火を起こそうぜ! 俺、カマドで火を起こすのって好きなんだよな」

 相棒は『まったく軽い人ですね』とため息を付きつつ、楽しげに『どうしますか?』と聞いてくる。

 実際はコイツも楽しいんだろうなと、内心クスリとしつつ、カマドの準備をする。
 まずはヤシの幹から取った、ふわりとした繊維。

 それをカマドの中へと入れる。
 その上にヤシの葉っぱを被せ、そこを囲む形で細い枝の後に太い枝の順に並べる。

 まずはヤシの繊維に着火すれば、大きな火力は必要ない。
 
「幸いライフジャケットの中にライターがあったから、これを使えばすぐに火が起こせる」

 そう言いながら糸状の繊維に火を付ける。
 ものの二秒ほどで一気に着火し、瞬間的に火が大きくなる。
 これは結構すごい火力だろう。
 
 そこへヤシの葉っぱを動かしつつ火にあて、瞬時に燃え移る。
 さらに大きくなる火の塊。

 そこへさらに葉っぱを投入し、火を大きくしつつ小さな枝に着火する。
 少し時間はかかったが、それにも無事に着火。

 そのまま細い枝をくべながら火種を大きくして、いよいよ本命の太い枝へと炎を移す。
 
「この工程はいつやってもドキドキする……」
 
 ジリジリと焦げる表面。
 そこから、うっすらと白煙が立ち昇り、次の瞬間オレンジ色の美しい炎が垂直に燃え上がる。

『おお! 主よ、これはいいですね。原始的な魂の喜びを感じます!』

 笑いながら「なんだよそりゃ」と言いながらも、その言葉の意味がよく分かる。
 炎というのは危険だが、同時にやすらぎも覚える不思議なものだ。
 だからこそ、人は焚き火に魅力を感じるのだろう。

 そんな事を思っていると、いよいよ本格的に太い枝に着火して、炎が大きく育つ。

「うし、こんなものっしょ。後はこのまま太い薪をくべてやって……と」

 強くなった火力はカマドの上部の穴へと吸い込まれ、どんどん火力が強くなる。
 そこへ次々と太い枝を投入し、火力が安定するころには相棒が感動していた。

『おお……これは良いものですね』
「だろう? おまえは長生きなのに焚き火は見たこと無いの?」

『もちろんありますよ。ですが、その時々の主と見る火の色は、私の中では特別なのですよ。ですから今日この時の焚き火は、また格別なのです』

 そう寂しそうに話す相棒に「そうか……」と一言いいつつ、静かに炎を見つめる。
 パチパチと木片がはぜる音に癒やされながらも、無粋なハラヘリの民が腹の中でブーイング音をならし、場の雰囲気を壊す。

『……さ、今は主の食欲を満たしてあげてください』
「だな。えっと何か獲物は……お、いたいた。アイツにしよう」

 カマドのすぐ後ろにある天然の滝つぼプール。
 ここは全体的に木陰だが、滝つぼの周囲だけは日が入り、まるでスポットライトを当てられているようだ。

 その光に照らされたのは複数の魚群。
 それに狙いを定め、相棒を握りしめて振り抜く。