『三丁目の御神木が枯れていた!』
『楠って虫が寄らない木でしょ? それが枯れるなんてヤバくない?』
『凶兆としか言えないっつの』

地域密着型SNSの名は伊達では無い。あやエスの話題は例の神社のことで満開だった。
壱子がいくらスクロールして飛ばそうとしても、すぐさまおすすめトピックに出てきてしまうのだから諦めてログアウトした。
幸い、陰陽師としての依頼はなく、大学生としての課題も片付けたところなのだ。
例のスクラップブックでも読み返して事件に浸る無為な休日を過ごすのも悪くない──と本棚を開いてはたと気づいた。
当事者に話を聞いた方が有益だ。

そうと決まれば善は急げだ。
壱子は急いで支度を整える。財布の中身に行きつけの和菓子屋のポイントカードが入っているのを確認すると、スマホを取りだし電話をかけた。呼出音もそこそこに元気なしわがれ声が応対する。数ヶ月前まで寝込んでいたとは最早誰も信じないだろう。

「──もしもし、おじいちゃま?」
「おお、壱子か! 何かあったか」
「うん。昔、おじいちゃまが大活躍した神社の事件があったでしょう。散々な目にあったから聞いて欲しくて」
「何ィ!? まさかあの神様気取りの魑魅(すだま)が求婚してきたとでも言うのか」
「その通り。例の鯛焼き買っていくから、愚痴に付き合って」
「粒あんで頼むぞ。カスタードなんぞは──」
「「邪道だ!」」

芝居がかった鹿爪らしいユニゾンが電話口の向こうとこちらで反響する。呵呵大笑にいったん別れを告げて、壱子は実家への道を走り出した。


あやかしの息遣いを耳にすることは難しい。

鬼と呼ばれた異形の姿は既にない。
天狗の如く空を飛ぶのは人間の発明品だ。

しかし、あやかしはそこにいる。
心通わせることもある。
厄介な縁を引き寄せることもある。

それを見定め彼岸と此岸の架け橋となるのが──『あやかしSOS』の役目である。