◇第3話

主人公ティルが目を覚ますと、そこは綺麗な布団の上だった。
起き上がろうとしたところで自分の右腕が肩の先から喪失していることに気付く。
ぶりかえす痛みとフェンリルに襲われた光景がフラッシュバックし、パニックになりかけたところへミラがやってくる。
彼女が言うには、意識を失ったティルを自領へ連れ帰ったという。

「止血などの治療はしたんだが、あいにくと魔獣に喰われた腕を元に戻すことはできない。……すまない」
「そう……ですか。これじゃあもう、奴隷として働くこともできないな……はは」
利き腕を失くし、落ち込むティル。
「こうなってしまったのは自分の所為だ……お詫びと言ってはなんだが、好きなだけここで過ごしてくれ」
とミラは自分の屋敷に彼を客人として置いてくれるという。
行く当てのないティルは当分の間、ここで世話になることにした。

特にやることもなく、ティル屋敷をブラブラと散策することにした。
すると縁側で昼間っから飲んだくれていたミラの祖父ユーラジン、通称ユラ爺と出逢った。
役立たずだと自嘲するティルを、徳利片手にカラカラと笑い飛ばすユラ爺。
力が欲しいなら運試しでもしてみろと言い、ユラ爺はティルを屋敷の倉へと案内する。
そこには古ぼけた一冊の本があった。
「これは我が家に伝わる秘伝書じゃ。これを読み解こうとした者は漏れなく失敗し、直ちに死に至った。だが成功すれば、誰にも勝る力を得るじゃろう」
表紙には見たこともない言語が書かれていた。
かつて読み書きスキルを持った人間が挑んだが、誰ひとりとして内容を理解することも読み上げることもできなかった。
「……やります。どうせこのままじゃ野垂れ死ぬ運命だし、何も挑戦せずに情けなく死ぬのだけは嫌だ」
そうしてティルが読解スキルを使用した瞬間。
『腕』という文字とそれが意味するイメージが彼の脳裏に現れた。
そのイメージのままに本に書かれた言葉を口に出すと、失われたはずの右手が現れた。

本に書かれていたのは古代のルーナ文字であり、魔力を必要としない魔導の力だったのである。