◇第2話

ベタクリス領の領主館にフェンリルが出たとの一報が届く。
だが当の領主バルドルはベッドの上で半裸になり、あられもない姿の女性が嬌声を上げていた。
「あ、あのバルドル様、事態は急を要して――」
「うるせぇ!」
バルドルは、その報告をしていた部下のうちの一人をいきなり殴り殺してしまう。
中央から来た査察官を尋問、もとい調教中だったところを邪魔したためである。
他の報告者や、モンスター襲来に騒いでいた領主の取り巻きは一瞬で青褪め、慌てて口を閉じた。

査察官は領主の生活や領主の務めを果たしているのか、影でコソコソと調査をしていた。
だがバルドルの隣に佇む美しい少女によって捕まってしまった。
彼女はかつてティルと同じ奴隷商館にいた奴隷で、現在はバルドルの護衛を務めている剣の達人だった。
「上の連中は綺麗ごとや正論で、俺様たちが言う事を聞くと思っているらしい。弱いくせに自分の方が立場が上だと思っている愚図どもめが」
「御命令してくだされば、剣聖である私が中央まで行って斬ってきましょうか」
傍に控える奴隷が腰元の剣に触れながら一歩前へ出ると、バルドルは「いいや、いずれ俺様の手で握りつぶしてやる」と葉を剥きだしにして嗤う。

傍から見ればあまりにも堂々とした反逆的な言動。
だが二人の実力はホンモノ。その場にいる者は査察官を含め、誰も彼らに歯向かうことはできなかった。
「クク、いつかお前もこの査察官のように俺様好みの女に調教してやる」
「……申し訳ございません。私には心に決めた男がいるので」
「嫌なら早く俺を殺せるぐらいにまで強くなれ。――お前には期待しているぞ」
緊急事態だというのに、二人はマイペースに会話を続ける。
「さて、丁度いいところに査察官サマがいることだし、領主が仕事をしているところもしっかり見てもらおうじゃねぇか」
裸のまま息も絶え絶えになっている査察官を肩に担ぎ上げ、部屋の外へ向かうバルドル。
戦闘狂の彼は心身ともに滾っていた。
そこへアルファデクス領の領主が出てフェンリルを下がらせたとの続報が入る。
テンションがあからさまに下がるバルドルだったが、
「――まぁいい。あの生意気なアルファデクスの領主も、いつか俺のモノにしてやる」と息巻くのであった。