「出発は三日後だ」
「承知した。きっと続けてオレを雇いたくなるはずだぜ」
「……」
「お嬢ちゃんもその気になったらいつでも言ってくれ。じゃあハリ、また明日な」
 さわやかに手をあげてミマスは踵を返します。

「あの男のあの自信はいったいどこから来るんだ」
 はあっとテオは重い息を吐いてから女神さまを見下ろしました。
「おまえも何か言われたのか」
「うん? ああ、嫁にならないかとな」
「……は?」
「故郷に連れて帰ってくれるそうだ。わらわが自分に惚れると思うておるらしい。じゃがなあ、それでは意味がない。あっちがわらわに惚れてくれねば」

「……いつにも…………」
 くぐもったテオの声に女神さまは「うん?」と首を傾げます。
「あいつにも、いつもの、あれを、やったのか?」
 テオの声はなんだかドスが利いています。ハリは怯えているのに、女神さまは気づくようすもなく当然だと言わんばかりに頷かれました。
「あたりまえだ。どこに可能性があるかもわからんからな。不意に雷に打たれたように落ちるのが色恋というものじゃ。尋ねてみるだけならタダじゃしなあ」

「……まえは……」
「うん?」
「おまえというやつは、人に向かってさんざん、好きになれだの、正妻だの、好き勝手言っておきながら、今度はエレナとくっつけようとしたり、あげくに自分は、異民族についていくだと? いい加減にしろ!」
 今まで溜まり溜まったものがあったのでしょう。テオの怒りは相当のようです。

「なにをそんなに怒っているのじゃ? おまえが相手をしないのだから仕方ないだろー」
 怒って早足に先に行ってしまったテオの背中に、女神さまのお言葉が虚しく反射します。

「ファニが悪いよ」
「何がじゃ」
 ハリにまで責められて女神さまは口を尖らせます。
「自分に気のあるふうだった女の子が、別の男と仲良くなったら、そりゃあ気分が良くないよ。おいらだって怒ると思う」
「はあ? 誓い合った仲でもないのに、どうして怒られねばならんのじゃ。だいたい、相手にしてくれない者をいつまでも追いかけたって仕方ないだろう」

「そこだよ」
 ハリはしたり顔で指を立てます。
「男はそんなに簡単に気持ちを切り替えられないのさ。男は女の心変わりについてけないんだ。だから悲劇が生まれるって、死んだとうちゃんが呑みながらいつも話してた」
「お、おう……そうなのか」
 ハリの言葉の謎の迫力に女神さまも頷かれる他ないようです。

 それにしても。ハリの言いようではまるで、少なからずテオにもその気があるように聞こえるのですが。まさか、まさかですよねえ。