狐爺さんに再び頭を下げて頼まれ。
 俺はというと返事に困っている。
 連日のデモも知っているし、ダンジョンの情報を公開しないとと言う話も納得した。
 オーク如きに手こずるってのも理解した。

 これって断ったら俺すっごい人としてダメな気がする。

「分かっ……!?」
 ———アベル様? またお人好しが出てるんじゃないの? 前世の時からそうだけど、困ってる人を見ると何でも簡単に引き受けるのは悪いくせだよ?

 返事を返そうとしたら、アリスが心の声で話しかけてきた。
 何だよそのお人好しは。誰のことだ?

 ———何言ってるんだよ? 俺そんなお人好しじゃねーよ?
 ———はぁ……これだから無自覚タラシは。

 アリスが頭を抱えこむ。何でだよ?

 ———そうやって何でもかんでも引き受けて、アベル信者をどんどんと増やしていったじゃない。覚えてないの?
 ———アリスよ? お前の言ってる意味が分からない。

 何で俺が信者を増やすんだよ。そんな奴いなかったぞ? お前は幻覚か何かを見てたのか?

「あっあのう? 如月様?」

 狐爺さんが、不思議そうに俺たちを見ている。
 そりゃそうだよな。なんか話そうとして急に黙り込んで何も話さなくなったんだ。
 アリスに何を言われようが、これを断ったら夢見が悪い。

「爺さん! 分かったよ。引き受ける」
「ほっ本当に良いんですか!? ありがとうございます! ありがとうございます!」

 俺がそういうと。
 狐爺さんは俺の両手を確と握りしめ、何回も頭を下げた。
 この爺さんは良いやつなんだな。こんな年下の奴にそう簡単に頭を下げるなんて。偉い地位まで登った爺さんが、こんな事を普通はしないのは分かる。

 そんな俺たちを見たアリスが。

 ———まぁそうだよね。これを断るアベル様も見たくない気もするし。

 はぁ? 何だそれは? アリスよ?
 さっきから言ってる事矛盾してるからな?

「それでだ。条件はあるぞ? 魔物討伐には協力するが、俺の姿は分からないようにして欲しい」
「なるほど……それは顔が分からなければ良いですか?」
「まっまぁそうだな」
「たとえばこの様な面で顔を隠すのはどうでしょう?」

爺さんが壁に飾られていた狐の面を俺に渡す。

「おおっ! これなら顔も分からないし、良いかもだな」
「では、アベル様はこの面を被ってダンジョンに参加するとの事で良いですか?」
「ああ。後は人数もそんなに要らない。カメラマンはこのアリスにしてもらうし」
「えっわっ私?」
「だってどうせアリスはついて来る気だっただろ?」
「そっ……それはもちろん。だけど……」
「爺さんも分かってるように、アリスも強えからな。だから弱い奴が多いと守る人数が増えるから、初めに入る時は少人数にしてくれ」
「それは何人くらいですか?」
「……そうだな。五人だ」
「分かりました。アベル様と同行する五人は、慎重に選ばせて頂きます。では日程は後日日を改めて連絡させて頂きますね。私はこれから各所に連絡して参りますのでお先に失礼しますね」

 そう言うと爺さんは黒尽くめの男達に囲まれ去っていった。

 なぜか爺さんが去った後、テーブルに色とりどりの高そうな料理が並べられていく。
 どうやら食べてゆっくりしていってくれとの事らしい。
 なかなか気の利く爺さんだな。

 もちろんお言葉に甘えさせて頂きます。