「ええと……何を? ヒーローってネタっすか?」

 横でアリスも頭を上下させている。俺と同じ気持ちなんだろう。

「いや……ネタ? とかではなくてね。SIBUYA✖️✖️✖️(渋谷トリプルエックス)の事を、もえから聞いたんだが別名【渋谷ダンジョン】って言うんだってね。さっき君たちにもダンジョンと言ったが、その言葉を何の違和感もなく受け入れてくれたからね。ダンジョンについてかなり詳しいんじゃないかと思ってね」

 なるほどな。この狐ジジイめ、会話で探ってやがったのか。
 しかもサラッと鑑定で俺たちの事を見たとも言っていた。鑑定が使えるって事は、何か他にもスキルが使えたり魔法が使えたりするのかも知れない。

 細かく神眼で見てみるか……


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 【名前】 獅子王 仁
 種族 妖狐族
 獅子王コーポレーション CEO
 全国に子会社を持つマンモス企業
 日本政界の裏ボス
 妖狐族のボス

 【レベル】 66

 【体力】 450/480
 【魔力】 510/560
 【攻撃力】380/380
 【素早さ】100/100
 
 【スキル】 鑑定 Lv5 状態異常耐性 Lv2 身体強化 Lv2 炎魔法 Lv3

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 ふむ……レベル66か。ステータス値を見る限り、BかCランク冒険者ってとこかな。ん? 炎魔法も使えるのか
 知らなかっただけで、この世界でも魔法って使えるやついたんだな。

「如月様? もしや私を再び鑑定していますか?」
「えっ!? あっ……いや?」

 ボーッとステータス画面を見ていたから、バレバレだったんだろう。

「……はい。勝手に見てすまない」
「いえいえ。いいんですよ。私の事を知って頂き、それで信用が得られるならいくらでも見てください。分からないことは、なんでも質問してくれていいんですよ?」

 ニコニコと笑い、もっと鑑定してくれと言ってきた。読めねえジジイだ。
 だが本人自ら質問してくれってんなら、妖狐族ってのを説明してもらおうか。この世界では初めて聞いたもんな。

「じゃあさ? 質問していいか? 妖狐族ってのはなんだ?」
「妖狐族ですか? ふむ、そうですね。ちなみに如月様は、陰陽道というのはご存知ですか?」
「陰陽道? ええと陰陽師ってやつか? 確か特殊な力を使うんだよな」
「我らは特殊な力(それ)を異能と呼んでいるのですが……異能を使い人を鑑定したり、支配したりし我ら妖狐族はこの日本で確固たる地位を築き上げました。異能の力を使う者を陰陽師と呼んでいます。そして陰陽道を使える者こそが妖狐族なのです」

 ふむ……獣人族の妖狐とは違うみたいだな。異能ってのは初めて聞いたな。

「異能……魔法みたいなもんか?」

「ふむ。異能が魔法だと? 魔法はファンタジーの小説や映画などに良く登場する不思議な力ですよね? 異能は魔法(それ)ほど万能ではありません。もしや如月様は《《魔法》》が使えるのですか?」

「えっ? ままっまさか! 俺の力もその、ええと異能ってヤツだよ」

 しまった。思ったことを口に出してた。お口をチャック。
 横でアリスが残念な目で見ているのが分かる。
 無言でバカにするのやめて。

「そうですか……妖狐族以外で異能のを使える人がいるなんてね。もしかしたら如月様のご先祖を辿れば、我ら妖狐族の血筋が入ってるのかも知れませんね」
「ハハハ。そうかも……な」

 そんなわけねーがな。俺は異世界転生してんだから。

「じゃっまとめると、妖狐族てのは異能の力を使える者(陰陽師)たちって事だな」
「はい。そうですね」

 まさか日本を牛耳ってるのが妖狐族(陰陽師)だとはな。まぁそれだけの力があるって事なんだろうが。

「では話を元に戻して良いですか?」
「戻す?」

 またヒーローになってくれって? 断るぞ?

「はい。ヒーローと言うのは、如月様に分かりやすくするために言っただけで、ダンジョンの中を一般市民に公開してくれる人って意味なんです」
「ダンジョンを? 公開?」
「連日デモが起こってるのはご存知ですか?」
「ああ……すげえ騒いでるよな」
「それを収束するためにも、ダンジョンの内部を一般市民に公開する事が決まったんですよ。それで……どうやって公開するかを何度も話し合い、それでも答えが出なくて。だって中には恐ろしい魔物がウジャウジャしているのは《《確認して》》分かっていますからね」
 
 やっぱりか。俺が見た武装した奴らはダンジョンを調べてたのか。

「そのダンジョン内を確認した奴らに、紹介してもらったら良いんじゃねーの?」
「…………ダンジョンを調べに入った三十人は、三人しか戻って来ませんでした。それも如月様が軽々と倒した魔物一体に武装した三十人で立ち向かってですよ? 魔物一体を滅するのに、二十七人の犠牲者が出ました」
「オークにか!?」
「ええ……《《オーク》》にです。そんな名前なのですね」
「あっ!」

 またやってしまった。
 アリスがもう隠しもせず、おでこに手を置き大きくため息を吐いた。悪かったって。もう黙ってるから!

「そこで我ら妖狐族の出番となったわけなんですが、いくら異能を使える我らでも、流石に得体の知れない存在と戦うのは怖いですからね。どうしようかと話し合っていたら、孫のもえが自分を助けてくれた人を探してくれと、私に泣きついて来てね」

「わっ! お爺ちゃんそれはっ」
「だって本当の事だろう?」
「そうだけど……うううっ」

 なぜかもえはクッションに顔を埋めて黙ってしまった。
 なんなんだ? 

 ———ゾクリッ

 急にアリスの方から冷気が……ひっ! 
 氷のような冷たい目でアリスがもえを見ていた。
 どうしたアリス!

「魔物を一人で倒したともえから聞き。半信半疑ではありましたが、必死に探していたら、あの映像を見つけてね。見た我らは驚愕しましたよ。三十人でどうにか倒せた魔物を一瞬で滅したんですよ? それも一人で! そんなことが出来る人は、この世界にあなた以外いないでしょう。だからお願いします! 我らと一緒にダンジョンに入って下さい」

 そう言って再び頭を下げた。

 困ったぞ。こんな風に言われたら断れないんだが。