黒塗りのベンツにアリスと後部座席に座ったはいいが、なんとも言えない空気が漂っている。なんせ運転手や助手席に座っている男達は、皆黒のスーツを着て体躯の良い体つきをしている。そう殺し屋かボディーガードか? そっちのお仕事をしてますよね? てきな男達。
 ベンツの中も見た事がないくらいに高そう。もう俺の語彙力ではこのベンツの内装を語れねえ。まぁ凄えんだわ。だってこんな高そうな車、初めて乗ったわけだし。

 男達は話しかけても「自分達は、如月様と東雲様をお連れするようにとしか言われておりませんので、詳しくは現場にてお聞き下さい」の一点張り。

 シンっとした車内の中、大きな声もなんとなく出しにくく。
 アリスとコソコソと話をしている。

「……なんかすげえな」
「うん。すっごい偉い人のボディーガードしてる人達みたいだよね」
「それな」
「……もし何かしてきたら私の神聖魔法で」

 アリスが指をちょいちょいっと動かす。
 その出番は無いことを願う。

「おっホテルについたみたいだな」
「うん」

 助手席に座っていた男が降りて後部座席のドアを開く。なんだろう……そんな事された事ないので、偉い人になったような気分だ。

「ではこちらへ。案内しますので、ついて来て下さい」
「おう」

 言われるがまま男の後をついてく。
 その俺たちの後を一定の距離をあけつつ、五人の屈強な男達がゾロゾロと付いてくる。
 コイツらは別の車で、俺たちの車の後をついて来ていた奴ら。俺とアリスの二人を連れてくるだけなのに、そんなに人数いるか? 
 柳木さんは一体どんな偉いさんに、俺たちの事を呼んで来いと言われたんだ?
 会うの……少しってか、かなり嫌になってきた。

 ホテルの中に入り、一般の人たちが入る所とは別の入り口を通ると、そこにはあきらかに普通じゃないエレベーターが。
 だってさ……何って言うのかな? 外国の美術館のよう? とにかく周りの装飾がとんでもなく豪華だ。こんな乗る前から豪華なエレベーターなんて見たとこないぞ。

 ポケーっとエレベーターの前に立っていると、男の一人がカードキーを差し込み扉が開く。
 エレベーター内に入ると……さらに驚愕することになる。
 エレベーター内の照明がシャンデリアだった。よく見るタイプではなく平べったい形のやつ。こんなの初めて見た。
 俺たちを乗せなんの振動もなく緩やかに上層階へと上がっていく。
 再び扉が開くと、ロビーのような広い空間が広がり、床は高そうな絨毯が敷き詰められていた。このまま土足で歩いて良いいのか心配になるほどに。
 男達が先にそのまま歩いていくのを見て、俺も足を踏み入れる。

「アベル様……なんかすごい所に来ちゃったね」
「だな。さすがの俺でも分かる」

 アリスと二人、キョロキョロしながら男の後をついていくと、ある部屋の前で男が立ち止まり、ノックをした後扉を開いた。

 この奥に俺たちを呼んだ奴がいるのか。

 中に入ると、二十畳ほどの部屋に大きなソファーとテーブルが置かれており、そのソファーに柳木さんと……老人それに女……ん? あれは!

 俺たちに気付いた柳木さんと女がソファーから立ちあがる。

「やっと会えた。私のヒーロー様」
「お前は! ネット拡散女!」
「ちょっと! 言い方ね?」

 なんと俺が助けた女、【久留米もえ】がなぜかこの豪華な部屋で柳木さんと一緒に立っていた。もえの横に座っている老人が今回の黒幕だよな。
 どう考えても。

 一番最後に、老人がゆっくりとソファーから立ち上がる。

「君が噂の時の人かい。初めまして私はこのモナの祖父の獅子王(ししおう)(じん)だ」

 謎の老人は俺を見てやんわりと笑った。