「コレはやべえな……」
「うん。前世ならここまで酷い事にならなかったと思う」
「そうだよな。戦闘能力の違いだよな。日本は平和だ、戦う必要なんてないんだもんな」
「うん。そんな人達にいきなりレベル違いの魔物が襲い掛かったら……」

 ———勝てるわけねぇ。いきなり大型ダンプと衝突したレベルだよな。

 俺はというと。
 アリスと109があったらしき場所の上空から、下を見下ろしているんだが……状況は最悪と言っていい。至る所に元は人だろうと見える肉塊が転がっている。
 アリスの神聖魔法もこうなっては無理だ。

 軍のヘリに自衛隊の装甲車まで出動しているが……戦況は最悪といった状態か。
 空を無数のヘリが行き交っているので、俺とアリスはヘリからは見えない場所に浮かんでいる。

「アリス。生きてる人はいるか?」
「うん。この周辺にいる人の中で0.5%の生命が見える。その命の火はまだ消えてないから、助ける事が出来る」
「よし、アリスはその人たちを回復してくれ。俺は溢れ出ている魔物達(クソ野郎ども)を消し去ってやるぜ。紅蓮、雹牙、お前らも準備はいいな?」
「「じゃ後でな」ね」

 アリスとハイタッチを交わし、俺たちは地上に降り立った。
 広範囲魔法を使うと、渋谷の街が大変な事になるな。それに生き残っている人に被害が及びかねない。コレは手間だが一体一体討伐して行くしかねえな。

 俺の影から紅蓮と雹牙が飛び出してきた。

「頼んだぞ?」
『くう』
『ワフッ』

 紅蓮と雹牙が任せてくれと、大きく尻尾を揺らせる。

「よしっ。やってやりますか」

 早速アレの出番だな。
 俺はアイテムボックスから、先日デュークさんから貰った模造刀を取り出す。

 コレを早速使う時が来るとはな。
 俺は再びこの刀に魔力を纏わせる。すると細くてしなやかな刀身が輝きを増す。

 やっぱり魔力との相性最高だな。俺がうっとりと刀を見ていると。
 紅蓮と雹牙がどんどんと、目の前の魔物を蹴散らしていく。
 ほんの数分で、百体以上の魔物の残骸の山が出来上がる。

 おいおい……俺の出番なんて無いんじゃ。

「待ってくれ! 俺の出番も残しといてくれよ」

 魔物を討伐しながら。
 何台もの装甲車の中を確認するも、乗っている人は全滅か。
 もうここには……生きている人はいないのか?

「あぐっ……」

 あまりにも惨たらしい惨状に、胸が苦しくなってきた。
 アリスもこんな状況を見ているのかと思うと、心配になる。

「キャアアアアアアアアアア!!」

 ———!! 悲鳴? まだ生きている人がいるのか?

 声のする方に走っていくと、同い年くらいの女の子がオークに襲われそうになっていた。

 身体強化をし、瞬間で女の子とオークの間に入る。
 そして刀を使って、オークの体を腹から一刀両断した。あいも変わらず豆腐を切ってるのかってくらいサクッと切れる。
 おおっと切れ味に感動している場合じゃねぇ。

 後ろへと庇った女の子を確認すると、座り込んではいるが……怪我はしてないようだ。

「もう大丈夫だからな?」

 落ち着かせるために頭にポンッと手を置くと、そのままゆっくりと撫でてやる。

「……あっああっあああ……」
「無理に喋ろうとするな。怖かったよな? もう大丈夫だからな?」

 そう言いながら、俺は落ち着かせるために頭をずっと撫でる。近所のガキとかも、こうするとよく泣き止んだんだよな。

「うっうううっ……ありっありがとう。ありがとうございます」

 数分もすると、落ち着いたのか饒舌に話し出した。

「何が渋谷に起こったの? ゲームで見るモンスターみたいなのが、急にいっぱい現れて……」
「それは、アレから発生したんだと思う」

 俺はそう言ってダンジョンを指差す。

「あれは……もしかしてラノベとかでよく見るダンジョンなの?」
「そうだな……ダンジョンだ」
「これは現実世界なの? パラレルワールドとか、私が異世界に飛ばされて……とかじゃなくて」
「違うよ。現実世界の日本だ」
「すごい! 本当にこんな事がリアルで起こるなんて!」
「ククッ。それだけ喋れたらもう大丈夫だな。安全な所に送ってやるよ」

 そう言って頭にポンと手を置いた。

「えっ? あっ……あわっ」

 ダンジョン周辺では紅蓮と雹牙が、バッタバッタと魔物をなぎ倒している。さすがだな。生き残っている魔物はもういないんじゃ。

「紅蓮! 雹牙! この子を安全な場所に移動させてやってくれ」

 紅蓮と雹牙をこちらに呼ぶと。

「キャアアアア!!」

 女の子は二匹を見て気を失ってしまった。

 しまった。俺からすると可愛いんだが、見た事がない人からすればこんな得体の知れねえ生き物怖えよな。二メートル以上の体躯に派手な赤と青の毛並みだもんな。

 気絶しちゃったけど……とりあえず今のうちに、安全な場所に運んどくか。
 紅蓮の背に女の子を乗せ、渋谷から離れた。

 よし。ここなら大丈夫そうだな。

 公園のベンチに寝かせ、頬を軽く叩き女の子を起こす。

「んっ……んん?」
「おっ起きたか?」
「ここは?」

 目を開くと、キョロキョロと周りを見回す女の子。

「新宿だ。渋谷からは離れたから安心してくれ」
「あっ……ありがとうございます。ありがとうございます」

 俺に深々と何度も頭を下げる。目にいっぱい涙を溜めて。安心したんだろうな。
「お礼はあいつらにも言ってくれ」

 遠くで心配そうにお座りをして、こっちを見ていた紅蓮達を指差す。

「あいつらは俺の大切な友達なんだ。怖くないから。お前をここまで運んでくれたのも赤い毛並みの紅蓮なんだぜ?」
「え……」
「まだ怖い?」
「だっ大丈夫。よく見たら目が優しいです。さっきは怖がってごめんなさい」
「ははっじゃあな? 俺たちはまだ渋谷に戻ってする事がたくさんあるから」

 そう言って紅蓮達の所に走って行こうとすると、手をグイッと引っ張られる。

「え?」

「あっあのっ私は、久留米もえって言います。貴方のお名前は?」
「ん? 俺か? 俺はアベルだ」
「まっ待ってください。また会えますか?」

「……タイミングが合えばな? またな」

 紅蓮の背に乗り再び渋谷へと戻った。