「アベル様♡お弁当作って来たよ〜♪」

 教室の入り口からヒョコっとアリスが顔を覗かせると。
 入り口にクラスメートの視線が集中する。

「へっ? あっ……アリス?」

 弁当袋を二つ持ったアリスが、俺の所にニコニコ笑いながら歩いて来るんだが、俺たち昼飯を一緒に食べた事なんて今まで無いだろ?

「マジ裏山だわ。アリスちゃんの手作り弁当。百万出してでも欲しいって奴いっぱいいるぜ?」

 ガハハっと笑いながら俺の背中をバンバン叩く。

「ちょっ葛井……声がでかいって」

 葛井が騒ぐせいで、ただでさえ注目されているのに、クラスのみんなどころか外の廊下にまで人がわらわら集まり俺たちに注目する。

「何がだよ〜? 素直な気持ちだろ?」
「もう分かったから。アリス外に出るぞ」
「え?」

 俺はアリスの手をとり教室を出た。
 ひやかしや色んなヤジが聞こえたが、そんなの無視だ。
 ドタドタと勢いよく教室を飛び出し、昼休みはほとんど人が近寄らない体育館裏にまでノンストップで走りきる。

「はっはぁ……」

 ここまで来たら誰もいないか。

 ベンチにドカッと座ると、アリスもすかさず俺の横に座る。

「アベル様ったらこんな所に私を連れてきてどうするつもり?」

 アリスがいつもの如く上目遣いで見てくるが。

「あだっ!?」

 アリスの頭にチョップをお見舞いしてやった。

「アベル様ひどいよう」

 文句を言いたげに口を膨らませるが、それは全て俺の方な?

「ヒドイようじゃないだろ? お前っ俺がいないのを良い事に、学校で何をしてたんだ?」
「えっ……いやっ……チョット? 本当チョットだよ? ほんの出来心ってヤツでね? やってみたらいつも嫌がるのに……嫌がらないし。なんか楽しくなって来ちゃって……今のうちに公認カップルにしちゃえとか? あじゃっ!? 違っ」

 少し目を泳がせながら、良からぬ事をペラペラと話すアリス。前世の時から嘘は苦手なんだよな。だからって何を勝手な事を、一人でやらかしちゃってくれてるんだ?

「へぇぇぇぇ?」

 ジロリとアリスを見るも、下を向き俺と目を合わせようとしない。
 自分の右手と左手の指を絡ませどうしたら良いのか、俺の様子を伺っているのがわかる。これはアリスの困っている時によくする癖だ。

「あうっ…………ごめんね?」

 心底反省してるみたいだし。

「はぁ……終わった事だ……良いいよ。もう怒ってないから、今後は気を付けてくれよ?」
「本当!? さっすがアベル様。大好き♡」
「わっ!? いきなり抱きつくなって! だからっ、そんなとこな?」
「むむむ……」

 ったく困った奴だが、憎めないんだよな。

「とりあえず飯作って来てくれたんだよな? ありがとな。ここで食うか」
「うん。今日はね? 肉巻きが自信作なんだ〜」
「おっ! マジで美味い」
「でしょう? ふふ」

 意外に料理は上手なんだよな。前世の時もいつも料理担当はアリスだったのをふと思い出した。ダンジョンに潜った時もウマい飯を毎回用意してくれいたな。

「それでね。この卵は今日は甘〜くしたの。コレも美味しいよ?」
「どれもウマいよ。アリスの料理はいつも美味いから」
「!!んぐっ」
「わっアリス大丈夫か? 水飲めっ水っ」

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「ふっ……ふぅ……死ぬかと思ったよ。……不意打ちにあんなこと言われてトドメにあの笑顔はダメ。絶対にあの顔は他の人に見せないんだから。アベル様は前世からほんっと無自覚すぎる」

 アリスがまた一人でブツブツと呟いている。

「ん? アリス大丈夫なのか?」
「ええっもっもちろん!」
「そっか? なら良いんだが」
「あっそういえば事務所の柳木さんがね? この前のモデル料払うから事務所に来てって」
「モデル料! それは嬉しいな。よしっ、今日貰いに行くよ」
「今日? 分かった。柳木さんに連絡しとくね」

 モデル料か……いくら貰えるんだろうな。楽しみだぜ。
 なんせアヴェルの奴は、イジメが原因で人が怖くて、バイトにも行けなかったからな。仕送りだけじゃ結構カツカツなんだよな。
 まぁアヴェルの場合、食事に金を使いすぎってのもあったがな。

 無理矢理ではあったが、何せよ初めてのバイト料だ。嬉しいぜ。

「アリスにも何か買ってやるからな」
「本当に? 嬉しい」