「…………アリス」
「学校を途中で抜けて帰っちゃうし……家にも帰ってないみたいだし、心配したんだよ?」
アリスが少し口を尖らせて、上目遣いで俺を見てくる。
その瞳からは、心配していたのが伝わってくる。
「どこに行ってたの? なんか制服も汚れてるし……」
それは自殺するために、橋の上から川に飛び込んだせいです。
……なんて心配しているアリスに、言えるわけねーし……。
上手い言い訳も浮かばねぇ。
こんな時は何も言わずにスルーに限る。
「何でもねーよ。じゃあな? お前も家に帰れ」
「えっ?」
俺は誤魔化すように、アリスの頭の上にポンっと手を乗せた後、ヒラヒラと手を振りながら家の扉を開け、急いで中に入った。
待っていてくれたアリスを置いて、家に入るのはどうかと思うが、アリスは隣の家なんだし今日は許してくれ。
流石に色々ありすぎて一人で整理したい。
ドアを閉める前に、アリスが何か言っていたような気もするが……そこまで今日は気を遣ってられない。
明日フォローしとこう。
とりあえずは風呂だー!
そうだ身体強化も解くか。
つい楽で、身体強化したまま帰って来てしまった。
「!? へあっ@Q!?」
あがっ!?
いだだっ
身体強化を解くと足元から崩れ落ちた。
マジか。
この巨漢デブは体力も全くねーのかよ……まさかあんな少しの身体強化で、こんなに酷い筋肉痛になるのか!?
これは……無闇矢鱈と使えねーな。
俺は匍匐前進ほふくぜんしんで床を這いずりながら風呂場まで行った。
困ったぞ。どうやって風呂に入る? 起き上がれねーんだが。
後の反動が怖いが……もういち一度だけ、身体強化を使うか。
「おお!」
さっきまでの鉛みたいに重かった体が空気のように軽い。
よしっ。さっさと風呂に入って今日は寝るぞ!
★★★
「あースッキリした」
いくら魔法で乾かしたからと言っても、臭えしめっちゃ汚れてたからな。
この世界のシャンプーやボディソープは本当優秀だな。前世ではこんなにも良い匂いのは売ってなかった。
これ前世で販売したらバカ売れしそうだな。
ふんふふ~ん♪
俺は鼻歌混じりに、二階にある自分の部屋へと上がっていった。
この後……身体強化を解き、地獄を見ることになるのも忘れ。
「なっ!?」
部屋に入り、俺は何とも言えない奇声を上げる。
これは身体強化を解いたからではなく。
「アリス!」
「ふふっ♪ だって話の途中だったし、部屋で待ってようかなぁって」
アリスがそう言ってニコリっと笑う。
もこもこの部屋着を着て、当たり前の様にソファーの上で寛ぎながら。
ふとベランダがある窓を見ると、少しだけ開いておりそこから侵入して来たのが分かる。
俺の部屋のベランダとアリスの部屋が隣り合わせで、小さな時はよくこのベランダからアリスが遊びに来ていた。
だが中学生になった頃からは、こんな風に遊びに来た事なんて一度もなかったのに。
なんで急に?
「お前っこんな時間に男の部屋に入るのはダメだろ?」
アリスは口をプクッとふくらませると「だってこうでもしないとアベル様とお話し出来ないし」と言った。
「話なんて明日でも……………え?」
今……前世の発音異世界の言葉で俺の名前を言わなかったか?
俺が何とも言えない顔でアリスを見ると、「んん? どうかした? アベル様」と言って再び笑った。