「う〜ん……なんか堅いデス。アヴェル! もっとアリスに寄り添って」
「そうですぜ? 死にかけの所を聖女アリスに癒してもらう感動的なシーン。もっとこう……苦しそうでいて恍惚とした表情デスぜアヴェル様」

 俺は座った状態で木にもたれかかり、その横にアリスが寄り添い俺の両手を握っている。言われた通りのポーズをしているんだが表情まで無理だ。
 ポーズをとるのだって何だか恥ずかしいのに。
 それになんだ苦しそうでいて恍惚とした表情ってそれはだな。苦しいのを喜んでいるってことか?
 俺にドMを演じろと? 

 どうしたら良いものか分からず、結局そのまま固まっていると。

「う〜ん。アリスはいいんデスがねぇ。アヴェルがあまりにも堅いですねぇ」
「うんうん。もしやアヴェル様は童貞ですかい? イケメンなのに女慣れしてないとか可愛いですぜ」

 ———ちょっ!? 変な喋りの外人ども。誰が童貞だよっ。聞こえてるぞ。そりゃ……アヴェルは豚だったわけだし……経験もごにょ。

「アベル様。もっと顔を近付けて? それとも私からが良い?」
「え? あっ」

 マーティンとディーンに気を取られていると、アリスが俺に急接近していた。
 顔が近い! 息をすれば頬にかかる距離……ってか下手に動けばアリスの口が俺の頬に触れる。

 思わず後ろに仰け反る。

「ちょっと! アベル様 何をやってるの? それじゃあいつまで経っても撮影終わらないよ? この後い〜っぱいデートしたいのに時間無くなっちゃう」

 アリスが少し口を膨らませながら、後ろにのけぞった俺の襟首をグイッと両手で掴み自分の所に引き寄せる。
 再び至近距離になる俺たち。

 クソッ。コレはアヴェルの感情のせいなのか? 心臓がドコドコと早鐘を打ってうるさい。
 心臓の音のせいで、パシャパシャとディーンが軽快にカメラ音を切っていた事さえ気がつかない。

「良いですぜ! その調子ですぜアリス。アヴェル様も中々良い表情をしてますぜい」

 え? 良いですぜ? 
 やっと今の情けない姿を撮られている事に気づく。

 ———こんな顔撮るのやめてくれ。恥ずかしすぎる。

 そう考えたら顔がドンドン熱くなるのが分かる。
 アリスから逃げようとするも……再びグイッと襟首を引き寄せる。

「アベル様が悪いんだからね?」
「え?」

 アリスが何か言ったと思ったと同時に、いつものように指をチョチョイっと動かす。
 ———何をする気だっ!? がっ!?

 体が麻痺して動かなくなった。

「アリス……おまっ……俺に神聖魔法を使ったな?」
「だってアベル様が悪いんだよ? いつまで経っても大人しくしてくれないから」
 アリスはそう言って俺を抱きしめる。
 麻痺して身動きの取れない俺は、アリスのなすがままだ。

「おおうっ! 良いデスねい。その表情を待っていたんデス。苦しいが恍惚として……ディーン! ちゃんと撮るですよ?」
「分かってるって! このチャンスあっしは逃しませんぜ?」

 それを見たデザイナーのマーティンが興奮気味に叫ぶ。
 ちょっと待ってくれ。俺は今そんな複雑な表情をしているのか?
 そんな事を考えると余計に恥ずかしくて顔が更に赤くなる。

「良いですぜアヴェル様」

 パシャパシャと軽快なカメラ音と、興奮気味のディーンの声が響き渡る。

 くそう……スキル状態異常耐性が使えていれば……こんなに恥ずかしい思いはしなかったのに。

 アリスの神聖魔法だけは特別で、スキルの効果が無効化され全く意味がない。
 だから普通なら効果がない麻痺なども効いてしまう。



 こうして俺だけが恥ずかしい撮影会は幕を閉じたのだった。