「アヴェル。さすがですぜ。あっしは感動しました。これを使って戦って下せえ」

 ニコッと白い歯を見せて笑った後、俺にそっと模造刀を託す。

「え? 模造刀(これ)を俺に?」

 ディーンはコクリと頷き、「好きに使ってくだセぇ」と言った。
 模造刀を上に少し掲げ確認する。
 何だろう……日本刀って前世の世界ではなかったが、軽くて扱いやすそうだ。
 俺は鞘から刀を抜刀する。すると細長い刀身が妖艶に煌めく。
 模造刀でこの美しさだ。本物が欲しくなる。
 日本刀にハマる奴の気持ちが分かるなぁ。

 思わず刀を握る手に力が入る。

「ああっアヴェル! 最高ですぜその気迫」

 パシャパシャっと激しいシャッター音が切られる中、俺はすっかり日本刀の魅力にハマり、何の音も入ってこない。

 枝を強化した時のように日本刀(これ)に魔力を纏わせれば、模造刀でも良い切れ味になるか?
 ちょっと試しにやってみるか。
 日本刀に魔力を纏わせると、鈍色だった刃文が白く浮かび上がり輝きを増す。
 おおっこれは美しいな。良い感じだ。

「よっと」

 軽く刀を振るだけで、二メートル先にある太い木がズズズッ音を立て横に崩れ落ちた。

「えっ!?」

 嘘だろ? 目の前に見える小枝を切り落とすつもりだったのに、本体ごと切り落としてしまった。力なんて入れてないぞ?
 もしかすると、日本刀と魔力の相性がすこぶる良いのかもしれない。

 ———じゃなくて。

 やばいやばいやばい。撮影に使う資材を壊しちまった。これって高額な弁償案件じゃ。
 恐る恐る周りを見ると。

「アベル様♡かっこいい」
「トトトトトトッ。トレヴイア〜ン。凄いですアヴェル」

 アリスとデザイナーのマーティンは、頬を桃色に染め拍手してくれている。
 アレ? 壊しちゃったのに大丈夫なの?
 カメラマンのディーンに至っては、カメラを構えたまま固まりピクリとも微動だにしない。大丈夫か? 近くにいたからビックリさせちゃったのか?

 ディーンに近寄り、肩を指先で軽くツンツンとつついて見る。

「あわっ!?」

 ハッと我に返ったと思ったら、俺の前で騎士のように片膝を立て跪いた。
 おいおい何をしてるんだ?

「アヴェル様。まさか貴方が武神だったとは、あっしはあの神の剣舞に感銘を受けましたですぜ? どうかこのディーンめを弟子にしてくだせぇ」
「は? ええと言ってる意味がワカラナイデス」
「あっしはジャパニーズ武士道に憧れがありまして」

 うんうん。それは言われなくても、その身なりで重々わかる。

「それで剣技を習っていたんですが……神界から舞い降りた剣技の武神アヴェル様。貴方の剣技は別物ですぜ。まさに神の領域」

 そう言って恍惚とした表情で俺を見る。

 変な二つ名を勝手に付けないでくれ。俺は神界から舞い降りてなどない。

 剣技がすごいのは、一応元勇者だからな。
 それくらいは出来ないと、魔王も倒せない。だがまぁ……結局魔王は、死んでなかったんだが。
 だがそれとコレとは別でな訳で。おっさんの、ましてや変な喋りの外人の弟子は要らない。
 ってか弟子なんて前世でもとった事ないんだから、どう扱って良いのかわからないのが本音だ。

「あいにくだが俺は弟子は取ってないんだよ」
「そそそっそんな殺生な」

 物凄く残念そうにガックリと肩を落とす。
「ってか撮影はもう良いのか? 良いんなら俺は帰るが」

 俺がそういうと「何を言ってるんデスか! 撮影はコレからデイス! こらっディーン私情を挟むんじゃないです。さぁ撮影開始でえす」とデザイナーのマーティンさんが慌ててディーンに喝を入れる。
「……ヘエイ」
 納得はいってないようだが、渋々撮影の準備をするディーン。

「さぁ次は、アリスとのツーショット撮影に入ルデス」
「わぁ♡アベル様と撮影出来るなんて! 一生の記念だわ目に全ての映像を焼きつ気ないと♡」

 アリスとマーティンは二人でハイタッチして、何だか楽しそうだ。


 ……まだまだ撮影はあるんだな。