「……………」
「……………」
「……………」
「……………」

 アリス達が待っている撮影現場に戻ったはいいが、俺の姿を見て固まってしまった。何か言ってくれないと不安になるだろ?
 鏡を見て少しでもカッコイイとか思ってしまった俺の感情が、信じれなくなってきた。
 さほどカッコよくないのか?

「あの……「トレヴィア〜ン! 想像を遥かに超えてきたデス! あまりの美しさにワタシは失神するかとオモタデス!」

 俺が何か言おうとしたら、デザイナーのマーティンが興奮気味に話をかぶせてきた。

「アベル様……カッコよくなりすぎだよ! こんなのダメだよ」

 はっと我に返ったのか、さっきまで口をアングリと開け固まっていたアリスが、俺の所に走ってきて腕にまとわり付く。
 左腕に何だか柔らかい感触がふれるので、気になって仕方ない。
 アリスをチラッっと見ると、さらに柔らかい物体を押し付けてきたので、絶対ワザとやってる。

「いや……これは。カッコ良いような気はしていたけど、ここまでとは」
「ええ? 柳木くん、分かってて連れてきたんじゃなかったの?」
「いえ……僕はアリスちゃんに頼まれて、連れてきただけで……」
「この子はバズるよ。きっと一躍大人気になるんじゃないか? 早く契約しておかないと、他の事務所に取られたら悔しすぎる」
「大崎さん。ですよね頑張ります」

 柳木さんと大崎さんが、何やら不穏な相談をしているようだが、俺はモデルになんてならないぞ?

「もうワタシは待てないデス! さぁ撮影しますよ! イライザ、カメラマンのディーンを呼んできて!」
「分かったわ。マーティン、せっかち何だから。その気持ち分けるけどね」

 ちょっと待ってくれ。
 俺に何の承諾もなく事が進んでいるんだが、カメラマンだと?
 もしかして俺は、この後モデルの仕事をするのか?
 やっと事の重大さに気付き、変な汗が止まらない。

「アベル様、どうしたの?」

 左腕にあいも変わらずくっ付いているアリスが上目遣いで俺を見る

「どうしたのって、俺この後モデルのマネごとをさせられるんじゃねーの?」
「マネごとって言うか、モデルだけどね」

 アリスが何を今さらって感じで首を傾げる。

「おおっ俺、ポーズ取るなんて無理だぞ!? アリスみたいに顔も作れねーし。まずカメラ見て笑うとか無理!」
「もう! やる前から泣き言なんて言って。元勇者でしょ? どんな勝負でも勝たないと」

 そう言ってアリスが両手で握りこぶしを作り鼓舞する。
 勇気付けてる気なのかもしれないが、勇者とモデルじゃ職種が全く違うだろうが。

 とりあえず、俺には無理だと断らないと。
 服も着ていた服に着替えて、俺は帰る。

 そう思い、自分の服が置いてある部屋に戻ろうとしたら

「へいへいへ〜い♪ あっしを魅了するほどの被写体が居るって、聞いて飛んできやしたぜ?」

 扉がバァンっと開き、イライザさんと一緒に中に入ってきたのは、腰に模造刀を下げ、着流しを着た俺を超える大男の白人。
 この人がカメラマンだと言うのか? ものすごく怪しいが、イライザさんと一緒に入って来たからそうなんだろう。

 カメラマンの男は、キョロキョロと周りを見回しながら歩き、俺の前でピタッと止まった。

「あんたデスカイ? ほうほう……こりゃあ撮りガイがありますねぃ」

 ……また変な外人が、一人増えた。ファッション業界って、こんな奴らばっかなのか? 

「では撮影するデス。アヴェルとアリスはついて来るデス」

 デザイナーのマーティンさんが、俺たちに向かって手招きする。
 いやだから、俺はモデルする気ないんだけど。