「ちょっ!? あのっええと……」
「イライザよ? ボーイ」
「ああイライザさん。俺をどこに連れて行くんだよ」
「ふふふっ。それはねボーイ? 今からボーイに魔法をかける所よ」
「え? 魔法?」

 日本に魔法なんてないと思っていたが、魔法が使えるやつがいたのか。俺だけだと思い上がっていた。
 しかしだ。堂々と魔法をかけるとか言って良いのか?
 そうか! コイツらは俺が魔法を使えるなんて、知らないからな。もし魔法をかけられても、いつでも大丈夫なように、気を引き締めとかないとだな。

「さぁ着いたわよボーイ」

 ある部屋へと俺を連れてきたイライザ。部屋の中には数人の女がいるだけで、何かされるような雰囲気はしない。
 緊張しながらも中に入ると。

「服を脱いでくれる?」
「へっ? 脱ぐ?」

 急になにを言ってるんだ? なんでこんな人前で裸にならないといけないんだよ!
 俺がなにもしないでいると、イライザが人差し指をチッチッチと言いながら顔の前で動かす。

「もうボーイはワガママね? 脱がせて欲しいの?」
「ふぇ!?」

 イライザが俺の肩にそっと手を添える。
 なんだかその手つきがイヤらしくて……思わず変な声が出てしまう。
 それが恥ずかしくて固まっていたら。

 ———え? なんで?

 俺はパンツを履いただけの、あられもない姿になっていた。

「ちょー!?」

 これが魔法ってやつか? こんな一瞬で俺をパンイチ姿にするなんて! なにが目的なんだ。
 辱める魔法か? ……もしや魅了魔法?

「これがイライザの言っていた魔法か?」
「んん? なにを言っているのボーイ? 魔法はこれからよ? だけど魔法をかける前にやることがあるのよ? お楽しみは後でねボーイ♡」

 ———やる事? だと。

 イライザがそう言って、人差し指で俺の鼻先にチョンと触れた後、妖艶に笑いながらウインクした。

「みんなー!ボーイの採寸して、隅々までよ?」
「「「「ハイ。ボス」」」」

 ———え? 魔法はこれから? どゆこと?

 驚き固まっていると。
 四人の女が俺の体に群がり、いきなり触れてきた。
 そして、ヒモのような物を色んな部位に巻いては外すのを繰り返す。
 なにをしているんだ? もしや俺を測っている?

 何にしろだ、パンイチ姿でこんな至近距離で女達に囲まれたのは、前世も含め初めてだ。
 恥ずかしくて死にそう。


「ボス計測完了しました」
「そう? お疲れさま。じゃあエヴァンを呼んで来てちょうだい」
「ハイ。ボス」

 やっと女達が離れてくれ、部屋には俺とイライザの二人だけになった。
 まさかこれから何か魔法を使うのか?
 そんな事を考え、ピリリと緊張が走った次の瞬間。

「はぁい♪ イケてるボーイってのはどこにいるの?」

 ドアがバァンっと開き、銀色の短髪に顎髭を生やした男性? が入ってきた。
 話し方は女性のアレみたいだ。困惑しながら見ていると、目があう。

「んまぁ! ちょっと! なんて可愛いボーイなのっ。最高じゃないのっあああっ」

 男は自分の体を抱きしめ、身悶えている。
 何だろう。少し悪寒がするのは気のせいだろうか? きっと服を脱がされたせいだろう。

「ボーイ? 名前はなんて言うの?」

 男はそう言って、野生のヒョウが獲物を見つけた時のように、目をギラリと光らせ俺の目を捉えて離さない。

「えっあっ俺の名は如月(きさらぎ)アヴェルだ」
「アヴェル! んまぁ♡名前まで良い」
「わっちょ!? 離れてくれ!」

 いきなり抱きついてくる男。俺は裸同然だぞ? 勘弁してくれ。
 おっさんと抱き合って喜ぶ趣味は無い。

「もうっ。つれないんだからぁ」

 そう言いながらも、俺を上から下へとジロジロと舐めるように見てくるオネエ喋りの男。

「ふぅん……せっかく綺麗な目をしているのに、鼻まである前髪のせいで全て隠れているじゃない。そのヤボったい髪型を変えるだけでも変わるわね」
「エヴァンもそう思う? ボーイはダイアモンドの原石よ。ちゃんと光輝くように魔法をかけて頂戴ね?」
「任せて頂戴♡ 最高の魔法をかけてあげるわ」

 なんだと? 魔法はこのエヴァンて野郎が使うのか!
 俺の体に再び緊張が走る。

「さぁ! 楽しみにしててね」


 ★★★


「——これが俺?」
「どう? 見違えたでしょう? 私の最高傑作よ♡」

 エヴァンが鏡越しに俺を見て笑う

 どんな魔法を使うのかと警戒していたら、なんて事はない髪をカットされ眉や肌の手入れをされただけだった。ややこしい言葉を使わないでくれ。
 まぁ顔の手入れなんてされたのは、生まれて初めてだったから少し驚いたが。

「サイズぴったりの服も用意したから、これに着替えて?」

 イライザが俺に洋服を手渡す。見るからに生地の良い高そうな服。

「すげえ……なんて気持ちいいんだ。着てないみたいに軽い」

 大袈裟だが、こんなにも着心地のいい服は初めて着た。服に興味のない俺でさえ感動するレベル。

「ふふ? でしょう? この着心地の良さも、アレクサンダーの人気に火をつけた一つの要因でもあるんだからね。さっマーティンが今か今かと待っているわ。みんなの所に戻りましょう」

「おう……」

 俺たちは部屋を出て、アリス達がいる撮影現場へと再び歩いて行った。

 この姿を今からアリスに見られると思うと、何だか照れ臭いな……。