「柳木さんおはようございまーす」
アリスが元気よく挨拶をしながら、扉を開け入っていく。
すると大慌てで、こっちに向かって走ってきた中年の男性。
よほど焦っているのか、額から汗が止まらない。
「アリスちゃん! ごめんね〜。本当に助かったよ。撮影が始まったら急にブランド側から、用意していたモデルではイメージと違うとゴネられてね」
そう言いながら両手を合掌し、アリスに何度も頭を下げている男性。
「えっそうなんですか」
ここは港区にある、オフィスビル六階にあるモデル事務所。さすが大手事務所だけあって好条件な立地でかなりの広さ。
すげえ。なんか俺……場違いじゃねーかな。物珍しくてついキョロキョロしてしまう。
「さっきね。日本でのプロデュースを、ブランド側から全て任せられている、クライアントの大崎さんから、半泣きで連絡があってね。それで急なんだけど、今から直接撮影現場に向かっていい?」
「私で大丈夫ですかね? そのブランドって今世界中が注目している新進気鋭のブランド【Alexander】ですよね?」
「そうそう! アリスちゃんなら大丈夫だよ。現場で宣材写真を見て、この子が良いってデザイナーのマーティンが指名したんだ。時間がないから、後は現場に行きながら話すね」
「了解です。それと……この彼も一緒でいいですか」
「彼?」
慌てていて、俺の存在に気づいてなかった様子。上から下へと舐めるように俺をみる。
「ほう……これは。ふむふむ」
何なんだよ。そんなに見ないでくれ。
「アリスちゃんの友達? もしかして彼氏かな?」
「ええ〜♡ やっぱり? 分かっちゃいます?」
アリスが彼氏という言葉に反応するが違うだろ?
その後も俺を舐めるように見る柳木さんとやら。
「へぇ……お友達はかなり身長が高くて、スタイルが良いね。アリスちゃんの頼みだ。もちろんオッケーだよ」
「わぁい♪ ありがとうございます」
「さっ急ぐよ。地下の駐車場までみんなで走って行くよ」
柳木さんを先頭に、駐車場に向かって走っているんだが。
俺からすると柳さんは急いでるように見えず、ハフハフと苦しそうに歩いているようにしか見えない。
急ぐんだろ? 抱えて走ろうか?
ヒョイっと抱え上げ「ええと柳木さん。俺が運んでやるから駐車場まで案内してくれ」と言うと。
「え……っ♡」
「ちょっと柳木さん! なに頬赤らめてるの! アベル様? お姫様抱っこするなら私だよう。ねぇっ」
アリスが訳の分からないことを言って急にむくれる。
いい歳したおっさんが、男の俺に抱えられて頬を赤らめる訳ないだろ!
ふと、柳さんを見ると、なぜか目を閉じて頬がほんのり桃色に染まっている。
———っておいっ! 案内してくれ。目を閉じたら案内できねーだろうが。
★★★
「大崎さん! お待たせしました」
「おおおっ柳木くん! 待ってたんだよー」
撮影現場に着くと、クライアントの大崎さんとやらが半泣きで走って来た。
「急にデザイナーのマーティンが、イメージと違うって言い出してね。モデルの子たちを全員帰しちゃったんだ。はぁ……」
どうやらマーティンって人が面倒な感じか? そして誰も文句を言えない偉い立場の人って事だよな。
「他のブランドで、こんな事をいきなり言われたら、クライアント同士で話し合いが始まるんだけど。今世界中で注目されているブランド【アレクサンダー】だからね。初めて日本での独占掲載させて貰えるのもあって、僕たちは逆らうなんて出来ないよ。これでゴネられて『掲載はやめた』何て言われたら最悪だ」
「ですよね。それだけは絶対に避けたい」
「で……この子がマーティンの選んだ子?」
柳木さんとやらがアリスを見る。
「そうそう我がモデル事務所一押しの女の子アリスちゃんだよ」
「なるほど確かに可愛いね。今日は急にごめんね」
などと話していたら、髪が腰まである派手な服を着た外人男性がこっちに歩いてきた。
「おう! 来たデスネ。うんうん。良い。思った通り可愛い」
アリスをジロジロと見る、派手な外人。
大崎さんと柳さんがペコペコと頭を下げているので、コイツがどうやらそのデザイナーっぽいな。服もそれっぽいし。
「この子なら良い撮影が出来そうデスネッ!?………なぁっ!?」
アリスの後ろに立っていた俺と、不意に目が合うと奇声を発するデザイナーらしき男。
何だってんだ?
「「「えっ?」」」
急に俺を見て奇声を上げたせいで、その声に反応してみんなも俺を振り返って見る。注目するのやめて。
「こここっこの彼は!? 誰デスカ? ああああああっ! インスピレーションがぁ溢れてくる! イライザこっちに来て! 早くっ」
急に独り身悶えている怪しい外人。どうしたんだよ?
「マーティン、なぁに? 急に奇声を上げて?」
「いっイライザ、落ち着いていられるワケないですよ! かかっ彼!」
「彼?」
マーティンが俺を指差す。
派手な美人に、俺を見ながら何かを訴えているのが分かる。
「わぁ! この素材はヤバイわっ」
「でしょ? ヤバイデス。大崎! 決めました。彼でイキマス。さすがですよ? 大崎。良いモデルを用意してくれましたね」
そう言って大崎さんの肩にポンと手を乗せる。
「えっ? かっ彼? あっそそっそうでしょ? もう最高の人材を用意しましたから」
大崎さんが一度俺をチラッと見た後、再びマーティンに媚を売る。
ちょっと待て、さっきから嫌な予感しかしないんだが。
「イライザ! さぁ彼を最高の出来に仕上げて」
「ふふっ。任せて? さぁボーイ? 行くわよ」
「はっ? えっちょっと」
イライザとやらが急に俺の手を引っ張り、何処かへと連れて行こうとする。
助けを求め柳木さんを見るが、柳木さん、大崎さんの二人が俺に向かって合掌し頭を下げていた。いつもなら文句を言うアリスもなぜか黙っている。
ちょっと待ってくれ! 俺はアリスについて来ただけだろ?
アリスが元気よく挨拶をしながら、扉を開け入っていく。
すると大慌てで、こっちに向かって走ってきた中年の男性。
よほど焦っているのか、額から汗が止まらない。
「アリスちゃん! ごめんね〜。本当に助かったよ。撮影が始まったら急にブランド側から、用意していたモデルではイメージと違うとゴネられてね」
そう言いながら両手を合掌し、アリスに何度も頭を下げている男性。
「えっそうなんですか」
ここは港区にある、オフィスビル六階にあるモデル事務所。さすが大手事務所だけあって好条件な立地でかなりの広さ。
すげえ。なんか俺……場違いじゃねーかな。物珍しくてついキョロキョロしてしまう。
「さっきね。日本でのプロデュースを、ブランド側から全て任せられている、クライアントの大崎さんから、半泣きで連絡があってね。それで急なんだけど、今から直接撮影現場に向かっていい?」
「私で大丈夫ですかね? そのブランドって今世界中が注目している新進気鋭のブランド【Alexander】ですよね?」
「そうそう! アリスちゃんなら大丈夫だよ。現場で宣材写真を見て、この子が良いってデザイナーのマーティンが指名したんだ。時間がないから、後は現場に行きながら話すね」
「了解です。それと……この彼も一緒でいいですか」
「彼?」
慌てていて、俺の存在に気づいてなかった様子。上から下へと舐めるように俺をみる。
「ほう……これは。ふむふむ」
何なんだよ。そんなに見ないでくれ。
「アリスちゃんの友達? もしかして彼氏かな?」
「ええ〜♡ やっぱり? 分かっちゃいます?」
アリスが彼氏という言葉に反応するが違うだろ?
その後も俺を舐めるように見る柳木さんとやら。
「へぇ……お友達はかなり身長が高くて、スタイルが良いね。アリスちゃんの頼みだ。もちろんオッケーだよ」
「わぁい♪ ありがとうございます」
「さっ急ぐよ。地下の駐車場までみんなで走って行くよ」
柳木さんを先頭に、駐車場に向かって走っているんだが。
俺からすると柳さんは急いでるように見えず、ハフハフと苦しそうに歩いているようにしか見えない。
急ぐんだろ? 抱えて走ろうか?
ヒョイっと抱え上げ「ええと柳木さん。俺が運んでやるから駐車場まで案内してくれ」と言うと。
「え……っ♡」
「ちょっと柳木さん! なに頬赤らめてるの! アベル様? お姫様抱っこするなら私だよう。ねぇっ」
アリスが訳の分からないことを言って急にむくれる。
いい歳したおっさんが、男の俺に抱えられて頬を赤らめる訳ないだろ!
ふと、柳さんを見ると、なぜか目を閉じて頬がほんのり桃色に染まっている。
———っておいっ! 案内してくれ。目を閉じたら案内できねーだろうが。
★★★
「大崎さん! お待たせしました」
「おおおっ柳木くん! 待ってたんだよー」
撮影現場に着くと、クライアントの大崎さんとやらが半泣きで走って来た。
「急にデザイナーのマーティンが、イメージと違うって言い出してね。モデルの子たちを全員帰しちゃったんだ。はぁ……」
どうやらマーティンって人が面倒な感じか? そして誰も文句を言えない偉い立場の人って事だよな。
「他のブランドで、こんな事をいきなり言われたら、クライアント同士で話し合いが始まるんだけど。今世界中で注目されているブランド【アレクサンダー】だからね。初めて日本での独占掲載させて貰えるのもあって、僕たちは逆らうなんて出来ないよ。これでゴネられて『掲載はやめた』何て言われたら最悪だ」
「ですよね。それだけは絶対に避けたい」
「で……この子がマーティンの選んだ子?」
柳木さんとやらがアリスを見る。
「そうそう我がモデル事務所一押しの女の子アリスちゃんだよ」
「なるほど確かに可愛いね。今日は急にごめんね」
などと話していたら、髪が腰まである派手な服を着た外人男性がこっちに歩いてきた。
「おう! 来たデスネ。うんうん。良い。思った通り可愛い」
アリスをジロジロと見る、派手な外人。
大崎さんと柳さんがペコペコと頭を下げているので、コイツがどうやらそのデザイナーっぽいな。服もそれっぽいし。
「この子なら良い撮影が出来そうデスネッ!?………なぁっ!?」
アリスの後ろに立っていた俺と、不意に目が合うと奇声を発するデザイナーらしき男。
何だってんだ?
「「「えっ?」」」
急に俺を見て奇声を上げたせいで、その声に反応してみんなも俺を振り返って見る。注目するのやめて。
「こここっこの彼は!? 誰デスカ? ああああああっ! インスピレーションがぁ溢れてくる! イライザこっちに来て! 早くっ」
急に独り身悶えている怪しい外人。どうしたんだよ?
「マーティン、なぁに? 急に奇声を上げて?」
「いっイライザ、落ち着いていられるワケないですよ! かかっ彼!」
「彼?」
マーティンが俺を指差す。
派手な美人に、俺を見ながら何かを訴えているのが分かる。
「わぁ! この素材はヤバイわっ」
「でしょ? ヤバイデス。大崎! 決めました。彼でイキマス。さすがですよ? 大崎。良いモデルを用意してくれましたね」
そう言って大崎さんの肩にポンと手を乗せる。
「えっ? かっ彼? あっそそっそうでしょ? もう最高の人材を用意しましたから」
大崎さんが一度俺をチラッと見た後、再びマーティンに媚を売る。
ちょっと待て、さっきから嫌な予感しかしないんだが。
「イライザ! さぁ彼を最高の出来に仕上げて」
「ふふっ。任せて? さぁボーイ? 行くわよ」
「はっ? えっちょっと」
イライザとやらが急に俺の手を引っ張り、何処かへと連れて行こうとする。
助けを求め柳木さんを見るが、柳木さん、大崎さんの二人が俺に向かって合掌し頭を下げていた。いつもなら文句を言うアリスもなぜか黙っている。
ちょっと待ってくれ! 俺はアリスについて来ただけだろ?