「落ち着いたか?」
「……うん」
アリスがホウッと息を吐きながらコーヒーを飲む。
ミルクたっぷりの甘々使用だ。
玄関でずっと立っているのもアレだから、泣き止んだタイミングで部屋に移動した。
ついでにコーヒーもいれて。
「まさか……こんなにも長くダンジョンから帰って来ないなんて思わなかったから、本当に心配したんだよ。あの場所はアベル様追跡システムが適用されないから、どこにいるのかも分からなくて……毎日不安で不安で、そしたら今日急にアベル様の反応が家にあって、慌てて飛んできたら……アベル様がいた」
そう言ってまた泣きそうな顔をするアリス。
俺はその怖いストーカーシステムの事を考えると、泣きそうだが?
「いやな? 俺ももっと早く帰れると思ったんだが、あのダンジョン八十八階層まであってさ、時間かかっちまった」
「八十八階層!? そんなにあったんだ」
アリスが大きな目をまん丸に見開き驚いている。
「ああ。よくクリア出来たと自分でも感心するよ」
「ふふっ元気そうな顔を見て安心した」
ソファーに座っていたアリスが、いきなりすくっと立ち上がると、ベットに座っている俺の横に座り直す。
「なっ……」
そっと太ももに手を置き、上目遣いで俺を見る。なんか良い匂いするし、久々だからかやけに緊張する。
心臓がヤベエ速度で早鐘を打っているのが分かる。アリスに聞こえてないか不安になるほど。バレたらなんか恥ずかしい。
「ねぇアベル様? 急にそんなカッコ良くなるなんて困る」
アリスが口をプクッと膨らませ俺を見る。何言ってんだカッコいいとか。
「まぁ……カッコ良いかは置いといて、確かに痩せたよな。これでもう白豚とは言わせねぇ」
「んん? アベル様本気で言ってるの?」
「え? ちょっ!?」
アリスがいきなり俺の着ていたシャツのボタン開きはだける。
そのせいで上半身が丸見えに。
「ほらっこの体! 女子が喜びそうなバッキバキの細マッチョ筋肉。それだけでもモテちゃうよ!」
そう言ってアリスが俺の腹筋を撫でる。
「なっ! いきなり触るなよっ。くすぐったいだろ?」
「だってアベル様が悪いんだよ? 私が見てないところで、こんなに変わるなんて……その変化を一番近くで愛でたかったのに! 悔しい」
いやいやアリス。最後の方は何を言ってるんだ? 理解に苦しむぞ。
いきなり服をはだけられ、体を触られて。
俺の脳内がプチパニックをおこし、色々と追いつかない。
落ち着け俺。
こんな時は話を変えるに限る。
「そっそうだ。今日は何日なんだ? 俺はどれくらいダンジョンに潜ってた?」
「今日は一月四日だよ。ダンジョンに入ってから四十五日過ぎたよ」
「そうか正月過ぎちゃってたのか!」
「そうだよ! アベル様と元旦に初詣とか行きたかったのに」
再びアリスが口を膨らませる。
予想通りというか、結構な時が経っていたんだな。俺の腹時計なかなかやるじゃん。
「……ってことは今は冬休みか」
「そう! お詫びとして明日は私に一日中付き合ってね?」
そう言ってアリスが、俺の胸に顔を埋めて来た。
ちょっと待て、いくら水魔法で綺麗にしていたとはいえ、風呂に何日も入ってないんだ。臭いかも知れないし、こんな至近距離で直接肌に触れるのはダメだ!
さらけ出した俺の胸に、アリスの髪や肌の感触が直に伝わりなんともいえない恥ずかしさが。
「わわっ分かったよ! 明日付き合うから! なっ?」
俺はそう言ってアリスを無理やり引き剥がすと、その勢いのままベランダに追い出す。
「わっ! 一日中だからね? 約束だよ」
捨て台詞をはいて、アリスはしぶしぶ自分の部屋に戻って行った。
「…………ふぅ」
久しぶりだからなのか、いきなり体に触れられたからなのか、胸のドキドキがまだ収まらない。
落ち着け俺。あいつは元残念聖女だぞ。
とりあえず明日は心配させたし、アリスに一日付き合ってやるか。