「暑ぃ……」

ダンジョンの外の景色は相も変わらず、アマゾンに生息しているような植物が生い茂り熱帯雨林気候のまま。
 
ダンジョンに一ヶ月以上潜ってたはずだから、もう十二月? か一月になってるはず、本来なら真冬でクソ寒いはずなのに。
本当この変な気候は、どうなってやがるんだ?
ダンジョンが消滅したら、元の富士の樹海の姿に戻るのかと思っていたのに。
ってか、そういやダンジョンは消滅したのか? 
俺は振り返りダンジョンがあった場所を確認すると、謎の建物はなくなり木々が生い茂っていた。

「ダンジョンがない」

ってことはやはり……クリアすると消滅する仕組みは、前世の世界と同じってことか。

さてとだ、家に帰るわけだが。
どうやって帰る?
空を飛んで帰る……はたまた転移魔法で帰るか。
もうほとんどの魔法が使えるようになったからな。
余裕だ。
魔法が使えなかったらやばかったな。金が全くねーから電車にも乗れねーし。
歩きで帰らないといけなくなる。
ほんと魔法さまさまだな。

『くぅ?』

紅蓮と雹牙が不思議そうに俺の事をじっと見ている。
何を考えてるのか不思議なのかもなって! ちょっと待てよ?
こんな目立つ奴ら連れて帰ったらやべえ!

炎のように赤い紅蓮の毛並みに、深い海のように蒼い雹牙の毛並みはどう考えても目立つ! そして犬にしてはデカすぎる。
だからって困ったぞ……コイツらと離れるなんて俺が耐えられない。

連れてても目立たない、良い魔法何かなかったっけ?
ええと……なんか……なんかあるだろ?

———あっ!

「そうだ! あれがある影魔法」
前世でテイマーの奴が、使役した魔獣達を影魔法を使って、自分の影の中で飼っていた。影魔法は本来ならテイマーしか使えないんだが。
俺には全属性魔法というスキルがある。
どんな魔法でも使いこなせてしまうんだ。

確かテイマーのやつが教えてくれたっけ。前世では使う事もなかったから、そんな事忘れてた。

ええと。そうそう。

《シャドーハウス》

そう詠唱すると俺の影が大きく広がる。

「紅蓮、雹牙この影の中に入っててくれるか? 俺が呼んだら出てきてくれ」
『『ワウ!』』

二匹は尻尾をブンブンと大きく振ると、大きくなった俺の影に向かってダイブした。

するとスッと影の中に消えていった。

「おおっすげえ」
このシャドーハウスの中は、無限に広くて俺の魔力に包まれて気持ち良いんだよな。
テイマーの奴がそう言って自慢してた。

よし! 家に転移しますか。
空を見上げると、太陽が西に沈みかけている。時間は夕方か?
この時間ならアリスも学校から帰って来てるかも知れないな。
心配しているだろうから、帰ってきたとアリスに報告しに行かないと。

なんて考えながら家の玄関の前へと転移した。

「家だ……」

よっしゃ! ちゃんと転移魔法が使えるのか不安だったが、大成功だ。
まずは風呂だよな! いくら水魔法で綺麗にしてたとは言っても湯船にゆっくり浸かりたい。
俺はニマニマしながら家に入った。

———え?

閉めたはずの玄関の扉が勢いよく開くと。

「アベル様!」

アリスが転がりそうになりながら、飛び込んできた。

「アリス!」

その勢いのまま俺に抱きつく。

「しっ心配してたんだからぁ! 良かったぁぁ無事に帰って来てくれて。でっでもこんなに痩せてぇ……うううっ」

怒りながら泣くアリス。その体は震えている。
こんなにも心配させていたんだと、少し……ほんのちょっとダンジョンを満喫しちゃってた事を反省した。

「アリス心配かけてごめんな」
「ううっすんっ」

俺はアリスが泣き止むまでずっと頭を撫でた。