中央に葛井、その両横に金魚の糞、右崎うざきと佐田さだ。
 コイツら三人がイジメの中心メンバーだ。
 
 さっきから俺を見て、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。
 どうせ……どうやって俺を痛ぶってやろうか、考えているんだろう。

 正直今の俺からすると、なんでこんな奴等を怖がっていたのか理解に苦しむ。
 底辺魔物のゴブリンよりも遥かに弱い。

「おい~? 白豚? お前出荷されたんじゃないのか?」
「ギャハハッ! それな? なんでこんな所を歩いてるんだ」
「早く養豚場に帰れよな?」

 葛井たちが俺を馬鹿にしたように嘲笑うが、それに対して苛立つどころか、なんの感情も芽生えない。
 俺は魔王と死闘を繰り広げてたんだ。
 それに比べたら……こんなの蚊がブンブンと、五月蝿く飛んでいるみたいなもんだ。
 いや……それ以下か。

「おい? なんとか言ったらどうなんだよ白豚!」

 今までの俺と違って、何の反応も示さない事に苛立ったのか

 葛井の奴が右手を振りかぶり歩いて来た。
 そのまま俺の腹を殴るつもりなんだろう。

 ……いいぜ? いつも通りに殴られてやるよ。

 だがな? 身体強化でコンクリの壁よりも硬くなった、俺の腹をだけどな?

 スローモーションを見ているかのように、ゆっくりと葛井の腕が俺に向かって伸びてくる。
 身体強化により、動体視力も強化される為、かなり動きが鈍く見える。

 待てども待てども、なかなか俺の腹に届かない。

「うらぁ!? だっ!?」

 やっと俺の腹を殴った葛井が、顔を歪ませ右手を押さえて座り込む。

 ククッ指が痛いんだろう。
 思いっきりコンクリの壁を殴ったようなもんだからな。

「……なっ?」

 痛さで顔を歪めた葛井が、なんとも言えない顔で俺を見上げる。
 そりゃ不気味だよな? 殴りなれた柔らかいはずの腹が異常に固えんだから。

「どうしたんだ?」
「!? 何の遊びだ?」

 右手を押さえて座り込む葛井の所に、右崎と佐田が近寄り異変に気づく。

「おいっ白豚! お前何やったんだよ?」

 右崎が俺の胸ぐらを掴んで威嚇する。

「何って……別に何にもしてないけど? てか右崎さぁ? 俺が殴られてたのを見ただろ?」

 俺が頭を掻きながら普通に答えると、その態度が気に入らなかったんだろう。

「おまっ!? 偉そうにタメ口聞いて! 右崎様だろ? この豚がっ」

 大声で叫びながら、右足で回し蹴りを腹に入れてきた。

 だが……身体強化している俺には全く効果もなく。
 いつもなら横に吹き飛ぶはずの体が、ピクリとも微動だにしない。

「あがっ……」

 右崎は蹴った足を抱え込み、唸り声を上げてその場にへたり込む。

 ククッ。その右足はもう使いもんにならねーよ。
 ヒビが入ってるかもな。

 葛井と右崎はゴクッと生唾を飲み込み、得体の知れないモノでも見ているように、俺を凝視してくる。

「どうしたんだよお前ら?」

 佐田は葛井と右崎の態度が急変したので、不思議そうに首を傾げる。

「そっ……そいつの腹が異常に硬てーんだよ」
「そうだ! 俺は腹を蹴っただけなのに、…………足がっ」

 二人が俺の腹を指差し狼狽える。

「はぁ? コイツの腹が?」

 佐田が俺の腹をポヨンポヨンっと叩く。

「あははっ! お前ら何言って? ブヨブヨじゃねーか。コレのどこが硬いんだよ?」

「「そんな?」」

 佐田が柔らかいぞ? っと俺の腹をポンポン触る。
 その姿を不思議そうに見る葛井たち。
 そりゃそうだろう。今は身体強化を解いたんだから、柔らかいさ。

「見てろよ~?」

 ポンポンと触れていた佐田の拳に、ギュッと力が入ったのが分かる。

 佐田は拳を俺の腹にめり込ませ、下から上へと突き上げるように殴ろうとした…………が。

 再び硬く身体強化した俺の腹に、拳をめり込ませるなど不可能な話で、ペキャリっと何とも間抜けな音が響く。

「ぎゃあああああああああああっ!」

 想定外の痛さに、佐田は地面の上に転げ、のたうち回っている。
 その一連の動作を見ていた葛井たちの顔が、ドンドン青ざめていく。

「どうしたんだよ? もう良いのか?」

 俺はワザと覇気を放ち、笑いながら近寄って行く。

「「「ひっ!」」」

 青ざめた葛井が「いいっ……行こうぜ!」っと踵を翻し足速に去ると。

「おいっちょ……!? 待ってくれよっ! 右足が動かねーんだよっ」

 右崎が急いで立ち上がるも、右足が痛く前に進めず、引きずりながら歩く。
「ったく。仕方ねーな」

 それを見かねた佐田が、肩を貸し担ぎながら連れて行く。

 その姿はまるで、アニメの悪役キャラの去り方そのもの。

「あははっ」


 ざまぁ。


 アイツら格闘技を習っているらしく、妙に自分達が強いと自信持ってるからな。
 毎回技の練習と言って、サンドバック代わりにされてたし。
 その殴り慣れた俺の体が異様に硬いんだ。
 余計ビビっただろうな。


 さてと……軽く仕返しできて、気分もちょっと良くなったし。
 帰るとするか。
 俺は家に向かって再び歩き出した。
 
 
 ———あれ? 

 家の前に誰か立っている……あれは。
 

「もう! 心配したんだよ?」

 家に帰り着くと……門の前で幼なじみのアリスが立っていた。