「はぁー食った食った」

 腹を撫でながらゴロンと砂浜に寝そべると、その横に紅蓮と雹牙も同じように寝っ転がる。そんな二匹の頭を撫でながらふと思う。
 コレじゃ海に遊びに来たみたいだなと。それがまさかダンジョンに居るだなんてな。不思議だな。

 なんでだろう。
 海ゾーンに入ってから全く魔物が出てこない。
 まぁ出ては来ているんだが、食料としか思えない奴らばっかり。

 こんな時は今までの経験だと、一匹だけ強え魔獣がいきなり登場したりするんだよな。
 なんて考えながらふと海辺を見ると、遠くの方から何かが物凄い勢いで泳いでくる。
 そうそう。あんな風に…………って!

「本当に来やがった!」
『グルル……!』

 飛び起きて臨戦態勢に入る。
 大きな水飛沫を飛ばしながらもうスピードでこっちに向かってきているのは……アレはなんだ?

 一瞬で俺の目の前に到着すると、車がドリフトするように急カーブしながら止まった。

「冷たぁぁぁぁっ!」

 俺に思いっきり塩水をかけて。

「………………」
『グッ……グル』

 静止したまま目があったんだが。
 なんだコイツ! 魚に足が生えてりゅ………アグ!
 ビックリしすぎて舌を噛んじまった。
 紅蓮と雹牙もちょっと気味悪がってる。その気持ちすっごくわかるぞ。

『………………』

 ギョロッとした大きな目が、無言で俺を見つめてくる。
 
 魚と目があうと、こんなに気持ち悪いのか?
 こんな魔物初めて見たんだが。
 その姿はタイのような魚の姿に、筋肉ムッキムキのふっとい足が二本生えている。この足で海の上をつっ走って来たようだ。
 この気持ち悪い奴は俺を攻撃するでもなく、ただジッと俺を見ている。

 そう黙って見ている。


「気持ち悪いって!」

 耐えきれずに雷魔法を魚野郎に放つ。

『ギョギョー!』

 なんとも言えない断末魔を叫びながら、海の上から陸地に飛んできてピクピクしながら息絶えた。

 …………本当に気持ち悪い。

【魚魔獣】
 名称  マッスルギョギョー
 ランク A
 強さ  50

 スキル 50メートル走
 焼いて食べたら美味しいよ♡


 マッスルギョギョーって……笑えねーよ。
 ほんと変な魔物と出会ってしまったぜ。
 
 焼いて食べたら美味しいって……正直言って食べる気は全くしない。

 神眼で見て、食べたら美味しいって書いてある奴初めて見た。
 少し気になるが、コイツは食べてもらいたいのか?

「うおっ!?」

 まじまじと見ていたら
 魚野郎が急に飛び上がり、再び海の上に立つと猛ダッシュで沖に向かって走っていった。
 
 ———コイツ死んでなかったんだ。

『くうう?』

 雹牙が困った顔で俺を見る。

「気持ち悪かったよな。気を取り直して先に進むか」

 紅蓮と雹牙の頭を撫でると、俺は再び歩き出した。
 ちょっと気持ち悪かったってのもあるが。

 前世のダンジョンと同じと思っていたが、全く同じではないんだな。
 未知の魔物もいるってのが、あの変な魚野郎が証明してくれた。

 俺はダンジョンに慣れてきて、少し気持ちが緩んでいたのかも知れない。これから先は初心に戻り、気を引き締めていかないとだな。