「ふぅ……ふぅ。森ゾーンに入った途端急に暑いな……汗が止まらねぇ」

 まぁ俺が酷い汗っかきってのもあるが。
 それをデブだからともいう。

 さて、どんな魔獣がいるんだろうな。

 ———ん? これって。

 密集した草をかき分け歩いていると、ふと足元に生えているキノコが目にとまる。
「ここっこれ! 香辛料キノコじゃ!?」
 色といい形といい前世のそれとソックリなんだが。

 紅蓮(グレン)雹牙(ヒョウガ)ちょっと止まってくれ!

 キノコに夢中になっていたら紅蓮達に置いてかれそうになってるし。

『ワウ!』
『キャッフ』

 二匹がピョンピョンっと俺の所に急いで戻ってくる。
 うん可愛い。

「前世のキノコと同じなら、これは役に立つんだが……どれ?」

 キノコを取り香りを嗅いでみる。
 おおっ! やっぱり香辛料キノコと同じ。

 笠の部分をちょっと舐めてみる。

「うおっ。ピリッとくる刺激。これは胡椒にそっくりだ」
 
 やはり同じだな。笠の部分が黒いのが胡椒なら、赤いのが唐辛子そして黄色いのがコンソメみたいな味のはず。
 ここに生えているのは黒と赤と黄だけだな。
 ふふふ……これは良いのを手に入れたぞ! 

「やったー! これでダンジョンでの飯が格段に美味くなるぜ」

 『くぅ?』

 紅蓮達が急に叫ぶ俺を不思議そうに見ている。
 許してくれ。良いものを手にいれて最高に気分が良いんだ。

 ふっふっふっ。
 これならいくらでもダンジョンに潜っていられる。
 飯の不安が消え去ったぜ! 
 なんせこのアヴェルの体が、すこぶる食い意地張ってるからな。頭の中でついつい飯の事を考えちまう。
 前世の俺じゃ考えられねーな。飯なんてどうでも良かったからな。
 それもこれも、この世界の旨い飯のせいだ!

 おっとツイツイ興奮しちまった。

 この調味料キノコは、風魔法と水魔法の複合魔法で水分を一気に抜き、乾燥させて使うんだ。

 黒いキノコと赤いキノコは、粉微塵にして使うのが一般的。
 黄色いのはそのまま入れてスープなどに入れて使う。
 だが黄色いキノコも粉微塵にして使っても良さそうだな。
 なんせコンソメ味なんて利用価値無限大!

 俺は生えているキノコ全てを根こそぎ収穫していく。
 こんな時無限空間収納(アイテムボックス)があって良かったと本当思う。
 前世では当たり前のスキルだが、今の世界ではそんなの夢物語だ。

 だからこそ、なぜ今の俺が前世のスキルや魔法が使えるのか……?
 その理由は、平和な日本に突如現れたこのダンジョンに、何か意味があるんじゃ。さらには魔王が関係して……おおっと。あの変態野郎のことは無視だ。関係ねえ。

「よしっ! 行くか」

 キノコも収穫し、俺はご機嫌で森を探索して行く。

『ワフッ!』
『ガルッ!』

 紅蓮と雹牙が敵を見つけたようだ。
 森ゾーン初めての敵はキラーアント。分かりやすく言うとデカいアリの化け物。
 三十センチくらいの大きさか?
 こんなのが普通に街を闊歩してたら大騒ぎだよな。
 ザッと見て二十匹くらいか?
 
「さてと、俺がどれくらい強くなったか試させて貰いますか!」

 俺は広範囲風魔法を放つ。

《ウインドストーム》

 嵐のような風が刃物のように研ぎ澄まされ、キラーアントを切り刻んでいく。
 二十匹以上いたキラーアントの群れが、ほんの数分で全滅した。

「よしっ!」

 キラーアントレベルなら余裕になってきたな。
 初めはスライムにさえ苦戦してたのが懐かしい。

 うん。俺強くなった。
 だがこんなもんで満足しねぇ。もっともっと強くなってやるけどな。

 この後も蝶やバッタが進化して化け物みたいな虫ばかり登場したが、どれも森ゾーンの魔獣はレベル二十前後くらいか。

 あの魔獣はいねーのかな? ハチの魔獣キラービー。
 アイツらは甘くって美味しい蜜を作ってるからなぁ。
 どうせなら、ゆっくり森ゾーンを探して見るのも良いかもな。

「ぐふふ……この後の飯も楽しみだし。森ゾーンなかなか楽しいな」