オークジェネラルが後ろにジリジリと下がっている。
 魔狼の気迫に押されているのか?

 そんな一瞬の隙を魔狼が見逃がす筈も無く。一矢乱れぬ連携で両横に跳ぶと、両サイドからオークジェネラルに魔狼の牙が襲い掛かった。

「おおっすげえ!」

 オークジェネラルも棍棒を振り回し抵抗しているが、魔狼の牙が右腕、左足と次々に襲っていく。
 次は急所である首へと魔狼の牙が狙いを定めた瞬間。
 間一髪で急所を退かれたオークジェネラルは、必死に棍棒を振り回す。
 その一振りが魔狼の体を直撃し地面に叩き付けた。
 
『ギャウンン!!』

 棍棒で叩きつけられた魔狼の鳴き声がダンジョン内に響く。

 ——-おかしいな。

 素早い魔狼が、オークジェネラルのあんな単純な攻撃を受けるなんて……。なんでだ?
 ん? あの魔狼の一匹が怪我をしてるのか!? それをもう一匹が庇ってるのか?
 だからあんな事に……なるほどなぁ。

『アベル様! また身を乗り出し過ぎ! ねぇ?』

 ——あっ!? 
 オークジェネラルが、地面に倒れている一匹の魔狼に向かって棍棒を振り上げたっあ!?

「ああああああああああああああっ!?」

『はぁ~言ってる側から……』

 俺は死闘を見るのに夢中で、太い体を前に乗り出し岩影から勢いよく転がり落ち、オークジェネラルと魔狼の間にすべりこんでしまった。

「いってててっ………」

 またやってしまった。アリスに怒られそうだ。

『お説教は後! 早く身体強化して!』
「身体強化?!」

 俺はアリスに言われるがまま、大急ぎで身体強化した。
 
 ——次の瞬間。

 オークジェネラルの棍棒が俺の腹にめり込んだ。

「あぐっ!?」

 いつのまにこんなすぐ近くまで!?
 さらにもう一発俺を殴ろうと振りかぶる。

 くっそ豚野郎め! もう一発とか勘弁してくれ!
 身体強化してるのにもかかわらず、めちゃくちゃ痛え。

 別方向に逃げようとするも、その先には魔狼が俺に向かって走って来ていた。

 まさに前門のオーク後方の魔狼。
 そんな中アリスの声が響く。

『私に任せて!』

 アリスの体が光輝き、大きな光の槍が現れると、オークジェネラルの肥太った腹めがけて飛んでいき貫いた。

「ナイスアリス!」
『えへへ』

 だがオークジェネラルが俺を見て、二チャリとヨダレを垂れ流し嫌らしく笑う。

「え? 貫いてない!?」
『むぅ! この体じゃダメかぁ!』

 未完成のアバターっていう事もあってか、アリスの神聖魔法の威力は、いつもの半分以下だった。
 オークジェネラルの体を貫くどころか、大きなダメージを与えることさえ出来なかった。

『アベル様ごめんね。役に立たなくて』
「何言ってんだアリス! めちゃくちゃ役に立ってる!」

 アリスが落ち込んで気にしている。
 大丈夫だと安心させてやる為にも、俺が自分でどうにかしないとだな。
 救いは魔狼が弱ってるって所か。

 どう戦う? オークジェネラルは魔法耐性があって魔法が効き辛い。
 唯一効果があるのが炎魔法。
 剣があれば……炎を纏わせて焼き斬ってやるのに!

『アベル様! 危ない!』

 再びオークジェネラルの棍棒が俺を襲う。
 さらに魔狼までもが俺に向かって飛んできた。
 同時攻撃とか勘弁してくれ!

 俺は棍棒に対して、右手に持つ木の棒でどうにか抵抗するも、簡単にへし折られた。
 
 その勢いのまま俺の体目掛けて、棍棒が落ちてくる。
 横からは魔狼が俺を狙って飛び込んで来た。



 …………あれ?


「——痛くない?」

 何でだ? 棍棒で確実に殴られたと思ったのに、さらに魔狼に噛みつかれて……無い?

 ——えっ!?

「なっ!? 何でだよ!?」

 自分も瀕死で弱っているはずの魔狼が、俺を庇う様に覆い被さっていた。

 さらにはもう一体の魔狼が、俺とオークジェネラルの間に立ち威嚇している。

 ——なんで魔狼が俺を庇うんだよ?!

 俺に何が起こってるんだ? 
 コイツら一体なんなんだ!?


★★★

あとがき

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