スライム如き低ランクの雷魔法で一発だな。

 俺が無詠唱で魔法を放とうとした瞬間。

『アベル様。魔法は使うの禁止だからね?』

 ————えっ? なんですと?

 アリスの方を振り返ると、呆れた顔で俺を見ていた。

『はぁ……こんな低ランク魔獣にいちいち魔法使ってたら、この先に潜んでいるBランク魔獣にどう立ち向かうつもり?』

「うぐっ」

 ごもっともなご意見で。
 何も言い返せません。

『じゃあ。わかったらアベル様は、そこにある木の棒でも持って戦って?』

 アリスが足元に落ちている物体に目を向けるが。
 おいアリスよ? これ棒って言うか、枝だよな? こんな直ぐに折れそうな枝で戦えと?

『ほら! もたもたしていると、あっ近くに来たよ!』

 くそう! 戦ってやるよ、こんな姿だが元勇者、戦術はこの体に染み込んでるさ!
 俺は勢いよく木の枝を振りかぶって、スライムめがけて突進した。

「ゴフッ!」

 スライムが勢いよくバウンドして俺の腹に直撃してきた。
 あれえ? なんで攻撃をかわせない?

 ————そうだった。

 染み込んでるのは前の体で……この体は新品(まっさら)だった。

「あぐっ! へぶっ!?」

 考えている余地を与えてくれず。
 スライム達のジャンピングアタックが、連続で襲ってくる。
 太ってるせいでそこまでダメージはないが、地味に痛い。

 くそう。
 スライム如きに苦戦するなんて!

 どう戦う? 武器は木の枝だけだし。
 スライムは中心に透けて見える赤い核を壊したら消滅する。
 簡単な話、核さえ壊すことが出来れば終わり。

 ————そうだ!

 体全体を身体強化したら後で解くのが大変だが、この木の枝と手だけを強化したら良いんじゃ!?
 それだよ! 俺って天才。

「よっしスラちゃん? そのスライムボディをブッ刺してやっから」

 右手先に集中して身体強化をかける。
 おおっ思ってた通りだ!
 木の枝が鉄の剣位の強度になったのが感じ取れる。

 次にジャンピングアタックを仕掛けてきた時に、タイミングを見計らって…………っと。

「今だ!」

 俺は思いっきり赤い核めがけて木の枝をブッ刺した。

 次の瞬間。
 ボンッっと弾けてスライムは消滅した。

『おおっ! さすがアベル様。やるじゃん』

 アリスがイケイケ~っと後ろでパンチを繰り出している。

 残り二体もこの調子でやっつけてやりますか。

 一体倒してコツを掴んだらもうこっちのもん。
 残り二体も簡単に倒してやったぜ。

「よっしゃ!」

 スライム討伐完了! 

『アベル様。レベル上がった?』

 アリスがそわそわしながら聞いてくる。

「…………レベルは上がってないな」
『さすがにスライム三体じゃレベルは上がんないか。よっし! ジャンジャン倒して行こ!』

 おいおい……ゲームのガンガン行こうぜ! ってな感じのノリで。
 アリスよ? ちょっと楽しんでねーか?
 まぁどうであれ、俺は頑張るしかねーからな。


 スライムを倒して奥に向かって歩いていると。

『アベル様、新たな敵が登場だよ♪』

 アリスよ……語尾に(♪)がついてんぞ? 面白がってんのバレバレだかんな?

 次の敵は……ホーンラビットか。角が付いたウサギの魔獣。
 一見可愛い見た目をしているんだが、素早く動きながら、頭の角を使ってブッ刺しに来る。

 あの尖った角でブッ刺されたら致命傷を負いかねない。
 これは作戦を考えないとだな。

 何匹いるんだ? イチ、ニィ……ロク。
 全部で六匹か。
 さっきのスライムの時みたいに、簡単には行かないだろうな。

『アベル様、新たな武器を見つけたよ!』

 アリスが武器を見つけた、と言って見ている視線の先にあるものは……木の棒。
 
 ————また木かよ!