———ダンジョンかぁ。

 前世ではよく潜ったもんだ。

 【ダンジョン】とは中に入ると別世界が広がっており、何層もの階層で作られている。
 中に入ると、得体の知れねぇダンジョン魔獣がウヨウヨといて、深く潜っていくたびに魔獣のレベルも高くなり、攻略するのが困難になっていくんだよな。
 ボス部屋ってのがまた、クリアするのに条件があったりと至難の業で、毎回大変だったな。

 前世では最高で百階層まであるダンジョンがあったっけ。
 
 あれをクリアするのに、一ヶ月以上潜ってたな。
 おかげでレアな装備品やアイテムをいっぱい入手する事が出来て、魔王討伐に役だったんだが。

 …………だが魔王は生きていて、その後国がどうなったのかは知らねーけど。

 ダンジョン(それ)がこの世界にもあるなんてな。そんな話聞いた事ねえが。
 俺が知らないだけなのか?

『アベル様? この世界にダンジョンがあるなんて聞いた事ないよ?』
「うお? そそっそだよな。やっぱねぇよな?」

 アリスの奴め……まさか俺の心の中まで読めるスキルを持ってるんじゃ?

『アベル様の考えてる事は分かり易いからね?』
 ぐぬう……またもや俺の考えを。

『さてと、このダンジョンどうする?』
「どうするったって……何の準備もしてねーしな。無闇に入って、これが高ランクダンジョンなら死にに行く様なもんだ」
『そうだよね。じゃあもう少しだけ近寄って、外から様子を見るだけにしようか?』
「そうだな」

 俺達は謎のダンジョン入り口まで歩いて行く。

「あ? 何だあれは!? 人か?」
 
 入り口付近で人が数人倒れている。
 急いで近くまで走って行くと…………!

「…………死んでる」
『だね。死後だいぶ経過が経っているね』
 
 多分だが、時空門でこの場所に飛ばされた人達なんだろう。
 ダンジョンまでどうにか辿り着き死んだか。あるいはダンジョン内で死んで、外に転送されたか。
 詳しくは分からない。

『せめて弔ってあげないとだね』

 アリスがそう言って神聖魔法を詠唱する。

《生命を司る精霊たちよ。失われ行く迷いし魂に、輪廻転生への光の道を照らせ》

 亡骸はキラキラと眩い光に包まれ昇天した。
 空へと消えて行く瞬間に、アリスへとお辞儀をしている様にも見えた。

『これでもう大丈夫だよ。魂は浄化され、神界で新しい肉体へと、転送してもらえるはず』
「さすがだな」
『えへへ。もっと褒めてくれても良いんだよ?」

 アリスが舌をぺろっと出して、悪戯っぽく笑う。
 くっ可愛いじゃねーか。

 入り口から中をそっと覗くと、直径十メートル程の空洞になっていて下の階層に降りる階段などがない。
 これは……転送タイプのダンジョンだろうか?
 ふむ……何処かに転送の魔法陣が描かれているんだろうか?
 
 つい興味津々に身を乗り出し、中を覗いていたら……自分の重さを支えきれなくなり、バランスが取れずに頭から地面にダイブした。

「いてて……」

 やってしまった。デブに変な体勢は無理だった。

『アベル様! 早く移動して!』
「え? アリスなんて?」

 何んだアリスのやつ? 慌てて……?

 ———移動?

 あれ!? 俺中に入っちゃってる!

 ふと手を置いた地面に目をやると、青く光り輝いている。
 さらに無数の文字と記号が地面に浮かび上がり
 
 ———あっこれは!?

「魔法じっ!?」

 やばいと気付いた時には。
 俺の体は何処かへと転送された。