「白豚君~? どうやって消したのか、教えてくれない?」
尾崎が俺を見て笑う。
正確には口角だけ上がり、目はギラついてて全く笑ってないが。
「どうって? 良く分からないけど消せたんだ」
コイツらにどこまで説明したらいのか、見極めないとだな。
なんなら尾崎が、俺と同じ世界の転生者なのかも。
「そんな簡単に消せる紋じゃないんだよ! あれはな? 入れた者しか消す事が出来ない筈なんだが?」
……契約者しか消せない?
そんな決まりあったか?
前世でも、無理矢理奴隷にされた奴等を助けた時……確か何人もの紋を消してやったぞ?
コイツは何を言ってるんだ? 転生者だが……俺とは違う異世界なのか?
「おい? 黙ってないで答えろよ?」
「……そんなこと言われても、俺には分からない」
「へぇ? じゃあ無理矢理言わせてやろうか? 消せたのがマグレなら次は消せないだろ?」
尾崎が俺に手を翳すと、奴隷紋が空中に浮かび上がる。それを俺に向かって飛ばして来たのだが、パリンと消滅した。
「へ? なんで?」
尾崎がアングリと口を開け、間抜けな顔で俺を見る。
「ブッ……」
笑っちゃいけないんだが……
「まぁいい。もう一度……」
再び尾崎の手の周りに奴隷紋が描かれる。だがすぐにバリンっと再び消滅した。
「ぷぷぷっ……」
俺の背後でアリスが、指をチョチョイと動かせ笑っている。
アリスの奴め、神聖魔法をまたこっそり使ったな。
「なっ!? どうなってるんだ!? くそっ……意味が分からない。なんで奴隷紋が消えるんだ? まさか……おい豚! お前が消しているのか?」
尾崎の顔色がみるみる青褪めていく。
そして得体の知れない何かを見ているように俺を見る。
まぁ気持ち悪いよな。奴隷紋が消えて無くなったんだから。
「俺にそんな事出来る訳ねーだろ?」
「…………そっそれもそうだよな。そんなバカな話」
出来ないと言われ安心したのか。そう信じたいのか。
尾崎は一人ブツブツ言いながら納得している。
ここで一つカマをかけてみるか。
「なぁ? ところでお前はさ? グロッサム王国って知ってるか?」
「…………え? なんだと? グロッサム王国だと」
俺が前世の世界で暮らしていた王国の名前を出すと、明らかに尾崎の顔が動揺している。
この反応はグロッサム王国を知っているな。
……やはり同じ世界の転生者か。
「なっなんでお前がその国の名を知っているんだ? この世界にそんな国名はないだろう?」
「何って……今俺がハマっているゲームの世界だよ。お前もそのゲームしてるのか?」
「あっ……!? ゲームの世界? そうか……ボソッ同じ転生者な訳ねーか。思わずそうかと勘違いしそうになったが」
今。同じ転生者な訳ねーかって言ったな。
呟いたつもりだろうが、身体強化中の俺には聞こえちゃうんだな。
耳も強化されてっからな。
「……はぁ。ヤル気なくしたわ。今日はもう良い。葛井? また後で連絡するからな!」
尾崎はそう言うと踵を翻し、スタスタと足速に反対方法へと歩いて行った。
「あっ!? ちょっと待って!」
「置いて行くなよ?!」
一緒にいた仲間が慌てて尾崎の後を追う。
「助かったのか?」
「良かったぁ~!」
「ハァ~っ」
葛井達が安堵の声を漏らし、その場にへたり込んだ。
安心しているが、一時凌ぎにしか過ぎない。
尾崎の事……もう少し調べる必要がありそうだな。