「葛井~? お前何デブ連れて来てんだよ? クククっすっげえデブ」

 尾崎が俺を見て、馬鹿にしたように笑いながら指を刺す。
 
「なっ!? アベル様の事、馬鹿にしないで!」

 俺の事を馬鹿にされたと思ったのか、怒ったアリスがひょこっと背後から顔を出す。
 俺の存在感が凄すぎて、華奢なアリスが目に入ってなかったのか、突然姿を表したアリスを見て、尾崎達が動揺している。

「東雲アリスじゃん!」
「うわっ! めっちゃ可愛い」
「顔ちっちゃ!」
「…………尊い」

 もうアリスに釘付けで、葛井達の事なんか目に入ってない。
 アリスは他校でも有名なんだな。
 モデルもしてるし……そりゃそうか。
 なんて一人で納得していたら、尾崎がこっちに向かって歩いてきた。

「あのさ? アリスちゃんは何でこんなデブと一緒にいるの?」

 尾崎の奴が馴れ馴れしくアリスに話しかけてきた。
 俺の事を、おもしろい生物でも見てるかのように、ジロジロと見ながら。
 そういや同じモデルの仕事をしてて、コイツと知り合いとか言ってたな。

「なんでって? アベル様と一緒に居たいからに決まってるじゃん!」

 アリスはニコッと笑うと、再び俺の腕にギュッとしがみ付く。
 だから……胸を押し付けてくるな。どう反応して良いのか困る。

「へ? アリスちゃん? そのキモいデブから離れなよ? なんか脅されてるの?」

 尾崎達はアリスが余りにも俺にくっ付くので、脅されていると思ったようだ。
 失礼な奴らだな。
 でもまぁ確かに、美少女と巨豚……どう見ても不釣り合いすぎる。

「変なこと言うね? 脅されてないし、私が一緒に居たくて側にいるの。ねっアベル様」

 アリスが俺を見て頬を染める。
 それを見た尾崎達は固まり……少しすると困惑した表情へと変わる。

「アリスちゃんって……デブ専なのか?」
「可愛いのに趣味が悪いとか……」
「豚専って残念すぎるだろ」

 おいお前らよ? 全部聞こえてるぞ?
 それは心の中にしまっとけ。


「んん。話が逸れるところだった。葛井? 例のもんは用意できた?」

 いち早く冷静になった尾崎が、葛井の前に立ち手を前にだした。

「え……それはまだ……」
「ふうん? 昨日約束したよね? 一回痛い目見とく?」
 
 尾崎が葛井に向かって手をかざす。
 それを見た葛井は思わず、条件反射の如く頭を抱えて座り込むが

「え? 何も起きない? なんで反応しないんだ?」

 何も起こらないので尾崎がキョトンと自分の掌を見つめる。

「あ……? そうだった! 奴隷紋消して貰ったんだった」

 葛井のその言葉に、尾崎の眉がピクリと動く。
「…………は? 葛井~今なんて言った? 奴隷紋を消しただと?」

 尾崎が座り込む葛井の服を無理矢理捲り上げ、腹を確認する。

「…………ない。嘘だろ。なんで消えてんだよ!? おいっ葛井どうやって奴隷紋を消したんだ!」

 動揺した尾崎は、葛井の胸ぐらを掴み無理矢理立たせると、首をキツく絞める。

「あぐ…….っ」
「どうやって消したのか早く言え! このまま締め落とされたいか?」
「ぞれはっそっ……ぞいつがっ……」

 葛井が震えながら俺を指差した。

「………え? この豚?」
「ゲホッ!ゲホッ」

 尾崎が手を緩め、俺を見てくる。助かった葛井は一目散に俺の後ろに隠れた。
 おい……葛井。雑魚キャラ感が半端ないんだが。

「……おい豚。お前が本当に消したのか?」

 ジロリと尾崎が俺を睨む。

「そうだよ! コイツだよ!」
「コイツは強えーんだ」
「そうだそうだ!」

 俺の後ろに隠れた葛井達が代わりに返事をしてくれる。
 お前らプライドってもんはねーのかよ?


「へぇ……それは詳しく教えてもらわないと」

 さっきまで、家畜でも見るように俺の事を見ていた尾崎の目が、豹変した。
 まるで新しい獲物を見付けた猫のように、鋭く光る。