……そうだ! 思い出した。
俺の名前は如月きさらぎアヴェル。父がフランス人で母が日本人のハーフ。
偶然なのか必然なのか、名前は前世と同じアベル。
正式な発音はアヴェルだが、発音が難しいのか皆からアベルと呼ばれている。
なんの因果か俺は、日本という国に異世界転生したらしい。
この世界では、俺が元いた世界に転生するのが流行っているみたいだが。
どうやら俺はその逆って感じか。
日本ここは魔法も無けりゃ、魔獣や魔王も居ない平和な世界。
一番怖いのは人。
俺は身長百九十センチ百五十キロの、巨漢デブって言われてる分類に入る。
フランスの血が、真っ白のもち肌を作り上げてくれたおかげで。
白豚と言う愛称を付けられ、高校ではみんなから可愛がイジメられている。
こんなにデカくて太けりゃ、なかなかイジメられ難いと思うんだが。
アヴェルのおとなしい性格にも一理ある。
高校に入ってからすぐにイジメが始まった。
理由は簡単。
俺の性格が見た目に反しおとなしく、何も言い返せないコミュ障だったから。
それだけだと、そこまで虐められないと思うんだが、一番の原因は俺の幼馴染である東雲しののめアリスの存在。
アリスが俺と毎日一緒に登校しているのが、気に食わない連中の癇に障りイジメがスタートした。
アリスは髪が腰までのロングヘアに、大きな瞳に小さな口と絵に描いたような美少女。それに性格も明るくみんなに優しい。学校のカースト上位に君臨しているアイドル的存在。
俺はもちろんカースト底辺。
そんな底辺の俺と、アイドルのアリスが毎日一緒に登校しているんだ。
……そりゃそうなるわな。
俺は何度も一緒に登校するのを避けたんだが、何故かアリスが一緒に登校したがる。
逃げても家に迎えに来るし、気が付いたら横に並んでいるし……それだけ聞くと、なんの文句があるんだと言われそうだが。
俺は静かに高校生活を送りたかったんだ。
もちろんアリスの所為で俺が虐められてるなんて、言えないし俺だって男のプライドがある。
だからずっと我慢していた。
————でも流石に今日はもう我慢の限界だった。
みんなの前で全裸にされ、その写真を撮られ#白豚の競りスタート。なんてハッシュタグで拡散された。
男だけじゃなく、女までが俺の裸を楽しそうに笑っていた。
あんな恥ずかしい写真が、知らない奴らにまで見られてるんだと思うと死にたくなり。
俺は衝動的に橋から飛び込み、自殺を図ろうとした。
…………それで今に至る。
川に飛び込んだは良いが、死なずに気絶したまま浮いて流され、その後浅瀬で岩に頭をぶつけて目が覚めたって所か。
はぁ……思い返すだけでも情けなくって……なんとも言えない気持ちになる。
俺は魔王まで倒した勇者だぞ?
何やってんだよ!
「ほんっと情けねぇ!」
俺は小石を無造作に掴み、がむしゃらに投げた。
「……はっ?」
投げた小石は対岸の土砂まで届きめり込んだ。
「これって……!?」
この世界では魔法は使えない筈なのに、前世で感じていた魔法のマナを体内に感じる。
もしかして俺……日本でも魔法使えるんじゃ?