「イライラしながら歩いてたら、一人の男にぶつかったんだ」

 イライラねぇ……どんな歩き方をしてたか、安易に想像できるな。
 どうせ道いっぱいに広がって歩いてたんだろ。

「そんでちょっと(・・・・)だけ偉そうに言い返したら、『お前は生意気だ。躾が必要だな』ってソイツが言った次の瞬間、腹にこんな模様が……」

 葛井達の話を聞くと、コイツらも大概悪いと思うが……。
 ちょっと偉そうにとか言ってるが、どうせオラオラと思いっ切りキレたんだろうしな。
 どう考えてもコイツらが喧嘩をふっかけている。

「なぁ? 俺死ぬのか? なぁ? 助けてくれよ! 白豚……いやっ如月」

 葛井が俺の足に縋り付いて懇願してくる。
 昨日までいじめてた奴に、よくそんなこと頼めるな? 
 コイツの脳みそはどうなってるんだ?

「……はぁ。で、そいつはどんな見た目をしていたんだ? 変わった服装していなかったか?」 

 ───異世界人の風貌をしていたんだろうか?

「変わった? いや……俺らみたいな普通の格好だ。あの制服は青藍(せいらん)高校だと思う」

 青藍高校……? 確か進学校だよな。偏差値もこの辺の高校じゃ一番高い。
 同じ高校生と言う事はもしかして……?
 葛井に奴隷紋を入れた奴は、俺と同じで異世界転生してきた奴……?

「おいっ! 何黙ってるんだよ? これは治るのか?」

 葛井がどうなんだと俺の体を揺すって来た。

 ……ったく今真剣に考えてるだろ? ちょっとくらい待てねーのかコイツは。

「なぁ葛井? お前はなんでその紋で、死ぬなんて思ってるんだ?」

 そもそも奴隷紋で人は殺せない。

「だってよ? 『お前は今日から一生俺の言う事を聞け、聞かないなら死ぬだけだ!』って言われたんだ! 初めはそんな話、信じてなかったよ。だけど命令を無視したら……身体中に猛烈な電気が走って、めちゃくちゃ痛かったんだ」

「命令ねぇ……どんな命令をされたんだよ?」

「そっ……それは……ゴニョ」

 よほど言いたくないのか、ちゃんと言わない葛井。
 
「何だよ? 全て話してくれないと分かんねーだろ?」

 別にそんなこと言わなくても、奴隷紋を消すことは俺からしたら、消しゴムで消すくらい簡単だが。
 面白そうだからな。

「ぐっ……………それは……土下座して……くっ靴を舐めたんだよ」

 葛井はそう言って恥ずかしそうに俯いた。

「お前が? 汚ねぇ靴を?」

 プライドの高い葛井が他人の靴を舐めるなんて、信じられねぇ。
 余程その相手が恐かったんだろうな。

「そっそうだよ! 死ぬよりマシだろ!」

「あははっ。そりゃ嫌だよな。ブッッくく」

「おまっ笑うなよ! ちゃんと言ったんだ! 早くこの模様を消してくれ。風呂でどんなに洗っても消えなかったんだ。お前に本当に消せるのか!?」

 葛井が猿みたいに顔を真っ赤にして怒る。

「ええとだな? 俺はその紋を消せるって一言でも言ったか?」

「……え? お前今さら……俺は全部言ったんだぞ! それなのに消せないって!?」

 今度は顔を真っ青にして葛井が俺の体を揺らす。
 赤くなったり青くなったりと、忙しいい奴だな。

「ちょっと落ち着けって! 消せないとも言ってないだろ?」

「あ……じゃあ! 消せるんだな?」

 そう言った途端に、葛井の顔がパァッと明るくなる。

「だが条件がある。その紋を入れた奴に、会わせてくれないか?」

 どんな奴なのか見たくなったんだよな。俺と同じ異世界の転生者かも知れないし。

「お前を? あの人に? でも……そんな勝手なことしたら……」

「ああ。直接合わせるわけじゃなくて、遠くからチラッと見るだけで良いんだ」

「そっそれなら……だけど絶対にこの体の模様を消してくれよ?」

「分かったよ」

 俺はこの後、謎の人物の様子を見る事になった。