教室に戻ると、数名のクラスメートが凄豚と話しかけてくれたが、まぁ豚の評価はそう急に変わったりはしない。
 八割のクラスメートが、俺の事を嫌な感じの目で見ている。
 これは勇者だったからなのか、俺に対して嫌悪感を抱いている人物の感情が、敏感に感じ取れる。

 机に歩いていくと、俺の椅子に画鋲が貼り付けてある。
 どうせ気づかず座って、痛がる俺の姿が見たいんだろう。
 お望み通り座ってやるよ。
 座ろうとすると、ニヤニヤと俺を見ている連中が数名。

「「「「「はっ!?」」」」」

 俺が何の反応もしないので目をまん丸にして驚いている。
 何で痛がらないのか、不思議なんだろうな。
 今の俺は絶賛身体強化中だから、鋼鉄の体に画鋲なんて効かないんだよ。
 全く痛がりもせず、何の反応もないまま授業を受け続けたからか。
 俺が席を立った瞬間。椅子を見にきて、へしゃげた画鋲の先を見て「なんで!?」っと驚いていた。
 ブックク。バカな奴らだ。

 ちょっとクラスの奴らと遊んでいたら、もう放課後になっていた。
 葛井の奴らは、あれから教室に戻って来なかった。
 言われた場所に素直に行っても、居ないんじゃ。
 もしかして遠くから俺を見てバカにするんじゃ? とかも考えたが、何処にいるのかなんて探索魔法(サーチ)を使えば一目瞭然なのでとりあえず行ってみる事にした。

 体育館裏近くになった時にサーチを使うと、三人の気配を感じる。
 どうやらちゃんと居るみたいだな。

「……おう」
「わざわざ俺の事を呼び出して何の用なんだ?」

 俺がそう言うと葛井はジロっと俺を睨む。

「昨日からお前は……全く違う奴に見える。お前は本当に、俺の知っている白豚なのか?」

 葛井のやつ……中々めざとい。
 確かに今の俺は、アヴェルであってそうじゃない。
 別の世界で生きてきた勇者アベルの記憶の方が、今は多く占めているからな。

 だがそんな事を葛井にいう必要はない。

「……そうだよ。俺は如月アベルだ。それ以外何者でもない」

 そう言うと、葛井は黙り込んでしまった。

 …….一体何なんだ?

 今日の葛井は様子がほんと変だ。

「お前はさ……得体の知れない存在って信じるか?」

 ……葛井はマジで何がいいたいんだ?

「得体の知れない存在?」

「ああ。俺は昨日そんな存在に出合ったんだ」

「そうだ! 昨日お前に絡んだ日に」
「気味の悪いやつに合ったんだ! 今のお前はそいつに似ている!」

 ……なんだ? 俺みたいな奴? 
 それって俺がいた世界の奴って事か?
 
 いやそんな訳ないよな。
 まだ葛井が何を言いたいのかが分からない。

「俺はそいつに……変な呪いをかけられたんだ!」

 葛井はおもむろに制服を捲り、腹を俺に見せた。

「なっ!?」

 その模様は……よく知っている。
 葛井の腹には、俺が元いた世界の奴隷に入れる術式が描かれていた。

「……やっぱり。その顔は知ってるんだな」

 葛井はそう言うと俺の前に平伏し

「頼む! 助けてくれ! 俺はまだ死にたくない」

 っと懇願してきた。



 ……昨日俺と別れてから、コイツらに一体何があったんだ?