「なっ!?」
「白豚いつのまにあんな場所に!?」
「さっきまでもっと後ろの方の位置にいなかったか!?」

 池野からボールを奪うと、俺はすぐさまセンターバックの位置から、ボールを蹴ってゴールを決めた。
 ボールは再びネットを破り、体育館の壁に当たって裂けた。二個目だ。
 そっと蹴ったつもりなんだが、なかなか加減が難しい。

「……嘘だろ?」
「俺は夢を見てるのか?」
「アイツは本当に白豚なのか?」

 さすがにこの一点で、追い打ちをかけたのか、みんなが立ち止まり動かなくなった。
 俺を何とも言えない顔で見ている。

「三点めー!! アベル様すごい」

 皆が呆然と固まる中。アリスだけがキャッキャと楽しそうだ。
 さすがに池野も、さっきまでの元気がなくなったようだ。

 そんな中先生が
「如月! お前実力を隠していたのか? サッカー部に入らないか? こんなに贅肉がついてるのに、よく動けるもんだな」
 などと試合中に言ってきた。審判しなくていいのか? まぁ試合中と行ってもみんな呆然と固まっているから、試合にはなってないんだが。

 結局その後は、俺も静かに傍観し(これ以上ボールを破裂させるのもあれだし)七組の勝ちとなった。

 試合後に数名のクラスメート達から
「白豚、見直したぜ! お前って動ける豚だったんだな」
「すげーよ。すごい豚だ」
「そうだな。本当すげえ! 今日から白豚改め凄豚だな」

 などど新たな愛称を頂いたが……結局豚じゃねーか!

 池野を含む一組の奴らは、全員が俺を睨んでいった。
 ……何か企んでそうな雰囲気だな。

「如月! お前太いのに中々良い筋肉してるじゃねーか!」
「……そっすか。あざす」
 サッカー部の顧問もしている中田先生が、俺の腕を揉みながら筋肉を褒める。
 今の俺は身体強化しているからな。そら固いわ。

 この先生に話しかけられるのって、初めてじゃねーか?
 まぁアヴェルの奴は、体育の時大人しく身を潜めていたからな。
 中田先生の興味の対象には、ならなかったのかも。
 
 でも巨漢デブだから、否が応でも目立っちゃうんだよな。
 それをアヴェルは気付いてなかったんだよなぁ。
 気付いてたら痩せていただろうしな。

「じゃ真剣に考えてくれよ? サッカー部で待ってるからな!」

 中田先生は手を振り去って行った。

 さてと、俺も教室に戻るか。
 次の授業に遅れたら大変だ。
 中田先生に捕まっていたおかげで、運動場には俺だけが取り残されている。

 ……身体強化解いて大丈夫かな?
いや待てよ? また動けなくなったらヤバいよな。家に帰るまで解くのはやめとこう。
 長く身体強化を続けていると、また家で気絶しそうだが……いま倒れるより良いよな。

 体育館から廊下を抜けて、教室に向かって歩いていくと

「…………よう。白豚」

「……葛井」

 葛井と佐田それに右崎の三人が、通路にもたれかかるようにして俺を待っていた。

「放課後、その裏で待っているから来いよな?」
「逃げるんじゃねーぞ!」

 葛井達は俺の返事も聞かず、それだけ言い放つと踵を裏返し歩いて行った。

 そっちは教室の方角じゃないだろ? 
 サボるつもりか?

 勝手に言うだけ言って、返事を聞かずに去って行くなよな。

 ハァ~……めんどくせえ。
 行かずに帰ろうかな。