「ちょっと、ちょっとぉ? みんな何で拍手しないの? スーパーゴールだよ?」

 シンっと静まり返った中、アリスだけが拍手しながら俺を褒める。

 するとその発言を皮切りに、静まり返った場が一気に騒めく。

「なんだ今のゴール!?」
「マンガみたいだったんだが」
「いやアニメだろ?」
「んなのどっちでも良いよ! 蹴ったの白豚だぞ?」
「見たか? 一瞬で池野からボール奪って……ゴクッ」
「ボールがネットを破って……」

 みんなが俺に注目する。
 あれ? さじ加減間違えたか? 
 こんなに騒つかせるつもりは無かったんだが。

「お前……サッカー出来たのか?」

 チームメイトの一人が、目を見開き恐る恐る聞いてきた。

 ……出来た? 
 アヴェルは出来なかったが、俺は出来る。
 だがそれは皆知らない訳で、うーむ。なんて答えたら……。

「まっ……まぐれだろ? その男が僕のボールを、簡単に奪えるわけがないだろ?」

 俺が返事をする前に、池野が勝手に答える。
 ボールを取られたのが、プライドを傷つけたんだろう。
 みんなには笑顔なのに、俺に対してだけ物凄い形相で睨んでくる。

 それを聞いたみんなが「だよな。マグレだよな」「白豚だしな。ありえねー」っと池野にのっかる。
 ……まぁ俺が出来る男だとか、みんな思いたくないんだろうな。

 それを見学していた葛井達三人だけが、静かに傍聴している。
 アイツらが大人しいと気持ち悪いな。
 真っ先に騒ぎそうな奴らなのに。

 まぁ信じないなら。
 何度もゴールするまで。

 再開の笛の音がなると、俺は再びボールを奪う。
 今度は颯爽とドリブルで走っていく。
 そんな俺の前に池野が立ち塞がるが、それをひらりと交わし、今度はチョンっとつま先で軽く蹴って、ゴールを決めた。
 身体強化してるから、思いの外ボールが飛ぶからな。
 蹴ったと言うよりも、つま先が触れたくらいの感覚。

「さすがアベル様! かっこいいー♡」

「「「……………嘘だろ」」」

 アリスだけが俺のことをうっとりと褒める。
 他の奴らは、呆然として固まっている。この状況が未だ理解できていないって感じだ。

「まだまだ! こんな奴に、やられっぱなしで良いのか?」

 そんな中、池野だけが唇をぎゅっと噛み締め、仲間達を鼓舞するように声を荒げる。
 アリスが俺のことばかり見ているのが、気に入らないみたいだな。


「そっそそうだ! 白豚が調子乗ってんじゃねーよ!」
「ほんとそれ!」
「このままマグレが続くと思うなよ」

 固まっていた一組の奴らは、池野の言葉にハッとし俺を睨む。
 どうやら俺に、集中攻撃が始まるらしい。
 まぁ。何人かかって来ようが余裕だ。

 試合再開の笛の音が鳴り響く。

 よーし。
 もっとゴールを決めてやるか。
 サッカー……意外と楽しいかも。
 前世で遊ぶ事なんてなかったからな。

 ドヤ顔で、得意げにドリブルしている池野のボールを、俺は再び軽々と奪ってやった。