「おい白豚~。今日はちゃんとボール取れよな?」
「ギャハハッ。豚はいつもみたいにブヒフビ歩くだけだろ」
「白豚は邪魔にならない所で、おとなしくしてろ」
「一組にクッソ勝ちてえ!」

 クラスの奴らは一組との勝負に勝ちたいらしく、ピリピリと殺気立っている。
 どうやら一組には女達から、塩顔イケメンと言われている池野もいるし、天界から舞い降りた天使アリスもいるから、どうしても勝ちたいんだとか。
 クラスの奴らがそう言って騒いでた。
 塩顔イケメンってなんだ? アリスに至ってはもはや理解に苦しむ。

 試合は一組A、B。七組のA、B。と四つのチームに分け戦う。
 ちなみに俺は七組のBチーム。

 一組のBチームと勝負するんだが、さっきアリスに絡んでいた池野って奴がいるな。
 ええとウワサの塩顔イケメンだっけ。
 キャーキャーと女達の歓声を集めている。
 あんなヤサ男のどこが良いんだか。
 

『ピィ——————————————-ッ!!』


 試合開始の笛の音が鳴り、皆がいっせいに走り出した。
 さてと、どうするか? 
 どうせ俺にボールなんて、まわしてくれねーからな。

 わざと取れないようなボールをパスしてきて、オロオロする俺にヤジを飛ばすくらいだろうし。
 それ以前に、俺はサッカーのルールを全く知らない。
 アヴェルの奴がスポーツに興味がないのと、団体競技はイジメの的だったってのもあるが。

 まずは大人しく傍観するか。

 なんて考えてたら、池野があっと言う間にゴールを決めた。
 次の瞬間。外野から黄色い声が飛んでくる。
 キャーキャーと五月蝿い。
 その声援に池野が応えるように右手を上げてポーズを決めると、さらに大きな歓声が。

「何カッコつけてんだ?」
「たかが一点だろ?」

 七組の男どもがブツクサと文句を吐いている。
 

「もう一点取るぞー!」

 池野がそんな男達をバカにしたように、更に煽ってくる。

 だが、池野の奴は有言どうり、もう一点軽々と決めた。
 ナルボドな、サッカーってあんな競技なのか。
 
 記憶にサッカーのルールが全くなかったので、傍観させてもらっていたが、見ていて大体覚えた。
 こんなお子様ゲーム、勇者の俺からしたら茶番のようなもんだ。

「よし! 今から巻き返すぞ」

 俺が声を荒げると、何とも言えない残念な目でみんなが見てくる。

「…………おい。白豚がなに張り切ってんだよ」
「お前は端っこでおとなしくしてろ!」
「まともにボールも触れねーくせに」
「邪魔なんだよ」

 チームメイト達が、何もせずにじっとしてろとバカにする。

 ……まぁそうなるか。

 アヴェルの奴は、ボールに触れることすら出来なかったからな。
 いつもなら、ここで俺をバカにして笑いたいから「じゃあやってみろよ?」っと、ボールをパスして来そうなもんだが、今日は一組に勝ちたいみたいだからな。
 俺の存在をマルっと無視してやがる。

 そうは行くか。俺だって馬鹿にされてイラついてんだよ。

 俺は身体強化を使い、ゴール間際までドリブルで走って来ていた池野(塩顔イケメソ)のボールを颯爽と奪うと、そのまま敵ゴールへと蹴り入れた。
 ボールは勢い良くゴールネットを突き破ると、その奥にある体育館の壁に当たって破裂した。



「「「「「…………え?」」」」」



 なにが起こったのか理解できないのか、その場にいた全員がゴールを見たまま固まってしまった。



「さすがはアベル様です!!! ナイスゴール!」


 シーンっとした空気の中、アリスの歓喜の声だけが響き渡るのだった。