とはいえ、残念ながらまったく眠れなかった。

 いつもならどこでも短時間の仮眠がとれるというのに、やはり、いつバレてもおかしくないという状況は緊張感が半端なかったようだ。

 ジークハルトは間もなく、ご褒美をありがとうと言ってエリザを解放してくれた。

 これ幸いと彼女は脱兎のごとく逃げ出し、公爵邸内を全速力で走り、厨房にいたサジに彼の目覚めを伝えたのだ。

 セバスチャンも戻っているとのことで、ラドフォード公爵にもジークハルトが起床したことを報告した。軽食が始まった彼の様子を恐る恐る様子を見に行ってみると、あまりにもいつも通りで拍子抜けした。

「エリオも食べます?」
「あ、いえ、私はいつも通り厨房で軽く食べますので」
「それなら僕が部屋で手紙を書いている間に、休憩を取るといいですよ。寝ている間ずっとそばについてくれていてありがとうございました」

 軽食を運んできた男性の使用人に聞いたそうだ。

(んん? あのベッドでのことは悪夢だったのかな?)