(あ、そうだ。私が触っても聖女の体質で大丈夫なんだっけ……)

 でも、確実ではないはずだ。彼にかかっている呪いの方が、エリザの中に半分だけ流れている聖女の浄化の体質を上回ったら症状が出るということで――。

 リスクを回避するのなら、素肌に長らく触るのはやめた方がいい。

「ジークハルト様、手を――」

 外させようとしたその時、ジークハルトがエリザの指の間を撫でてきた。それは絶妙な触れ具合で、なんだかとてもくすぐったい。

「……あの、ジークハルト様?」
「ん? どうかしましたか?」

 輝く笑顔を向けられた。手を握っていることをとぼけられているみたいだ。

 首を伸ばしてきたルディオが、ようやく二人が手を繋いでいることに気づいて「え、大丈夫なのか?」と呟いてくる。

(私、もしかしたら弟か親として見られているのかも……)

 エリザは悟りを得た目をした。つまり女として勘繰られる以前に、ジークハルトはエリザを本当に男だと信じきっているのだ。

 ジークハルトが手を握っているのは、親鳥に雛鳥がついていく感じなのかもしれない。

 なんだと納得したエリザは、すれ違った令嬢達の「まあっ、見て」「噂通りご執心なのではっ?」という小さな黄色い声に、がっくりと肩を落とした。

「とりあえず、手を離してくださいね……」

 呪いによる蕁麻疹が出る可能性はあるので、親切心から離させることにした。なぜかジークハルトは満足そうに「いいですよ」と言って、今度はあっさり手を離してくれた。