フィサリウスがうーんと秀麗な眉を少し寄せたのち、言い変える。

「どうしてそう思うのか聞いてもいいかい?」
「浄化の力を持っている人のそばにいると、苦しみや不安も緩和されると師匠に教えられました。呪いが身を潜めてくれるから安心感もあるのかな、と」

 そうすると、ジークハルトが治療係を盗られたくないという不安感を滲ませたのも、腑に落ちる気がした。

 せっかく見つけた信頼できる治療師、というよりはエリザの聖女の体質に知らず知らず救われてるのかもしれない。

 そうエリザは推測を語った。話していると、ますます自信が加わった。

「自分のものじゃない恐怖感があるなんてつらいことだと思います。蕁麻疹といった症状がなくなってしまえばジークハルト様の苦手意識も徐々に改善へ向かうはずですし、そうすれば公爵様を悩ませている結婚問題もすぐ解決! 私も治療係卒業! 呪いを解きましょうっ、殿下に全面協力します!」
「ジークのアレは呪いによるものなのかどうなのか――うーん、でも、君のその真っすぐさは実に部下に欲しい」

 足を組んで面白げに眺めつつも、やっぱり困ったという顔になって彼は微笑んだ。

「雇われるのは無理ですからね? 魔法使いではないのがバレてしまいますし」
「浄化と怪力の指輪で十分だと思うけれどね。うちは優秀な文官が欲しくてたまらないでいる部署が複数あって、繁忙期は地獄になるから」
「こわ」

 でも王宮も仕事の募集はしているんだなぁと、エリザは思ってしまった。確かに就職したら金銭には困らなそう――という感想が頭の片隅に残る。

「まぁ、勧誘はまた次回にしよう」

 フィサリウスはにこやかな口調で言った。意外にも面白い冗談も会話に挟む人なんだな、とエリザは思った。