(まさか、大人の男性に腰に泣きつかれるとは思ってなかったし)

 見た目が立派な騎士様そのものなので、ジークハルトの場合は余計にそうだ。

(殿下も、あれはきっとドン引きしてたんだろうな)

 ジークハルトが合流してからずっと、変な顔をしていたのは恐らくそのせいだろう。

 茶会が無事に進むといいのだけれど、とエリザは少し前のことも思い返す。

『普段から途中退場しちゃうからね。あれはあれで仕事なんだから、しっかり参加させて欲しいんだ』

 今回の茶会については、フィサリウスにそう言われて課題とした。

 幸いなのは、ジークハルトがエリザの治療には従順なことだ。ルディオには散々脅されたから、暴走に出られることを心配していたが杞憂に終わりそうだ。

 勝手に出回っている【赤い魔法使い】の噂と、この国の魔法使いへの接し方が役に立っているのかもしれない。

(出会った時も、素直に面談を受けてくれたもんな)

 思えば、そのあとも指導を拒否せず生徒らしく受け入れてくれている感じだ。

(女だとバレるまで、このまま穏便にいけそうかも)

 この時、エリザはそう安易に考えていた。