「なぜ!?」

 思わず、エリザの口から心の声がまんま出た。

 腰からようやく引き剝がして安堵したばかりだというのに、どうして彼はこのタイミングで抱擁なんて求めてくるのだ。

(ふ、服越しとはいえ、さっきと同じでぎゅっとするってことだよね?)

 思わず後ずさりしたら、ジークハルトが同じ分だけ歩み寄りながら言う。

「昔、怖いことを我慢した時に、よく父に抱き締めてもらったのを思い出しました。そうすると、すごく安心できたんです」
「あ、なるほど。さっきの怖い気持ちがまだ残っているんですね」

 納得した。しかし、受け入れるかどうかは話が別だ。

「でもですね、それは肉親相手だからであって、私はただの治療係ですし――ぴぎゃっ」

 言っている最中だったのに、両手でがばりと抱き締められた。

 エリザは咄嗟に降参ポーズを取った。彼の固い胸板に押し付けられて、高い体温に困惑しながら数秒固まっていた。

(これは、いったいどういう状況なんだろう……)