彼は世に言う天才だ。そして僕は、俗に言う凡人だ。どこにでもいる、普通以下の人間である。

 昼休みを削ってまで使った勉強の時間を、彼が同じ天秤に引っ提げたところで、結果は目に見えていた。要は負けているのである。単純に述べると、成績が。

 努力する事は苦だ。だって終わりが見えないから。どんなに頑張っても、与えられた側の人間に勝てないのだと、最初から分かりきっているから。

 僕にとっての必死は、彼にとっての適当なのだ。気だるげな様子で、凡人にはどんなに難しい事も、簡単に作業の如くこなしてしまう。そこまでを切り取れば、彼はやる気こそ欠けるが、完璧な人間に見えるだろう。完全無欠で、非の打ち所のない。そんな人間に。だが違うのだ。天才が世に生まれるには、何か大きな代償を彼ら自身が払わなければならない。それが常識だ。天才というのは、常々逸脱している。彼を見たら、よく分かる。


 『ねぇ、彼、独り言多くない……?」


 そう。彼はよく喋るのだ。

 天才は変人だ。天才は狂人だ。故に彼らは大きな武器を軽々と持って、僕らに残酷性を見せつけてくる。天才など、なろうとしてなれるような存在ではないのだ。僕らはなれて、秀才ぐらいだろうか。

 彼は人間として出来過ぎていたのだ。だから当然凡人民衆の僕等とは話が合わないので、マイノリティ扱いされる。除け者にされる。だけど彼は、目を背けてすらいない。分からないのだ、その思考が。その低俗な考え方が。知能指数の低い、誰かを貶めるだけでしか快楽を得られない哀れな人間の嗜好が。

 なんて悲しいのだろうか。彼は僕らに理解されず、彼もまた、僕らを理解できない。天才は孤独だ。独りぼっちだ。辛いだろう。

 ……嗚呼。だからどうか、僕にそのような目を向けないでくれ。僕は何も応えてあげられない。何も与えてなどやれない。正解など、持ち合わせちゃいない。

 何時迄も終わらない責め苦に、経験という宛にならない参考書を使って正答を探し続ける。僕は、こんな人間だから。本当は、天才と凡人が交わる事など、あってはならない事だったのだ。


 それでも君は、側にいるね。不思議だよ。

 薄汚い思考を偽って、今日も僕は、君を汚してしまうけど。

 ああごめん。やっぱり、苦しいや――