この世はなんてつまらないのだろう。世界は皆一様にしか見えないのに、それでも尚。ここの住民は生き生きとしている。何故だろう。
 
 僕の友人、いや、知人と言って然るべきか。世界に面白さを見出せない薄情な人間と友、だなんて。きっと嫌だろうから。ともかくその人は凄い。周囲の人間もそうだが、この人は格段凄いのだ。
 まず何と言っても努力家なところ。僕が暇過ぎて死にそうなのに対して、その人は非常に勤勉な様子を見せる。高校時代の彼は、特別真面目だったのを覚えている。受験期でもないくせに机上に広がる参考書達と格闘しながら昼休みを過ごす彼。何をそこまでして勉学に夢中になれるのか知りたくて、話しかけに行ったのが、今では懐かしい話だ。尋ねに行ったところで彼が言ったのはこうだ。


 『別に、普通じゃないかな』


 へらりと笑って。まるでこの状況が至極当たり前だと仰るかの様に。否、彼には日常になっていた。話しかけに行ったその日から、僕は彼に夢中になったのだ。

 二つ目に、謙虚と言うところだろうか。日本人の美徳その壱だろう。先に想起した台詞から読み取れる様に、彼は周りと違って勉強することに誇りを感じていないのだ。むしろその渇いた笑みから溢れでる表情の真を、僕が暴きたくなっている。全く鼻を高々と掲げることもなく、人に教えてあげる時も、酷く初心なのだ。
 
 三つ目は、その誠実さだと、僕は思う。二つ目と何が違うのかと問われると思うが、正確には、ちょっとばかし違うのだ。僕が何事にもやる気を見せないと言うか、如何しても起きないそれに相反している彼。裏表なくこんな面白くもない僕と真正面から向かって喋ってくれる。とっても嬉しかった。いつでも僕は、一人だと思っていたから。

 長くなりそうだから、これで最後。自分の将来像を持っている奴は、本当はものすごく凄いことだ。だってそうだろう? 何が面白い。何がそこまで君を狂わせた。周りの人間、皆んな可笑しいのだ。皆んなが皆んな、夢を持っているわけではなさそうだけど。それでも、凄いのだ。先が思いやられる将来像に、不安になる必要など、何一つないのだから。一つ二つの目的のために一生懸命に進んでいく。その長い長い時間を過ごせる忍耐力を持った人間を、僕は「天才」と呼ぶ事にしている。


 現在は特筆する事もなく、適当な職に就職して、適当に生きている。

 撫ぜてくる風が、喉奥を締め付けた様子だった。

 世界に面白さを見出さないと、ほら。こんなにも生き辛いらしいよ。