「ごめん、そんな顔しないで。せっかくだから近くのカフェでモーニングを食べに行こ。ね?」
 「うん。」
 そのままシャニに留守番を頼んだ。

 近くのカフェまで歩くなか、二人で過ごした部屋にあった手垢まみれの絵本のことを思い出した。

 「あの絵本って、随分大事に保管してあるみたいだけどあれってどんなお話なの?」
 「うさぎ姫。人魚姫のオマージュで切ないけど主人公の健気な恋心を描いた作品なんだ。子どものころ母さんによく読んでもらってたんだ。」
 「ふーん」

 「なつちゃんはそのうさぎ姫が人間になったときの姿によく似てるよ。背の高い、大人びた顔立ちの美少女なところがね」

 「私が?そんなこと……」
 泰明のストレートな感想に夏都は顔を赤くした。

 「そんなに顔を赤くしてかわいいね。俺は事実をいっただけだから恥ずかしがらなくてもいいよ。」
 
 カフェに到着後、化粧室まで消えた夏都を見つめたあと……。
 泰明は不敵な笑みを浮かべた。

 「本当にかわいいね。自分だけのものにしたい。俺だけのうさぎ姫。」
 
 泰明の深すぎる愛情。
 そのまま夏都はその愛に溺れることを知る由もない。
 ――――――
 3日目の昼過ぎ。
 夕はどれだけ泰明の愛に溺れていただろう。
 まだ余韻が抜けない。
 
 挨拶にしていたキスと比べ物にならない。

 『君を俺だけの花嫁にしたい。』
 『子どもの頃はじめて見たときからずっと愛してる』
 『兄貴や宏明にも……触れさせたくない。』
 
 そして、泰明の腕の中で眠りにつく寸前のところで……。

 『君を……他の男に触れさせたくない。俺だけを見ていてよ。愛してるよ……俺だけのかわいいうさぎさん♡』

 その言葉を皮切りに夏都の意識は途絶えた。

 「あんなことをサラッと言えるんだな……」
 気恥ずかしくなる。
 ここまで愛されたのは初めてかもしれない。

 「なんの話?」
 泰明がいつの間にか後ろにいる。
「泰兄ちゃん……。」
「なつちゃん、おはよう」
 いつもの優しいほほ笑みを浮かべる泰明だ。
 夏都この人はずっと自分のことを愛してくれたのかと思った。