「隠さなくてもいいよ。いきなりとは言わない。いずれは俺だけを見てほしい。」

 泰明は夏都の唇に「チュッ」と触れるだけの優しいキスをする。
 
 後部座席を見ると、シャニはお腹を上にして眠っていた。
「頼りないまもり猫ね。」夏都は我が子を見つめるように夢の中にいるシャニの頭をゆっくり撫でた。
 
 目的地につくと、シャニを抱えた状態で泰明とオランダ坂を巡った。
 ハートの石を探したり、ペット同伴がいいところを探したりと様々な場所を巡った。

 福砂屋のカステラをお土産に買いその日は帰宅した。

 ――――――――
 二日目の朝。
 泰明はすでに起きており、家の庭でタバコを吸っていた。

 「泰兄ちゃん、おはよう」
 「ああ、なつちゃんおはよう。」

 泰明は夏都の存在に気づくと笑顔になり、灰皿でタバコの火をもみ消した。
 
 「泰兄ちゃん、昨日はオランダ坂と福砂屋のカステラありがとう。」
 「ううん、なつちゃん浮かない顔をしてたから息抜きも大事かなと思ったんだ。」

 ふと夏都の中にひとつの疑問が浮かんだ。

 「泰兄ちゃん、仕事は大丈夫なの?」
 「うん。有給を消化しろって会社の人間がうるさかったしちょうどいいから昨日から1週間有給休暇を取ったんだ。」

 泰明のそういう所は抜かりなかった。
 正明とはそこが違うというものだ。

 「朝ごはん、どうする?」
 「なつちゃんの作るものならなんでもいいよ。」

 その何でもいいが作る側としては困るものだ。
 そのまま台所に向かい冷蔵庫をあけてみるやいなや……。

 中を見ると食材の殆どがない。
 その時に一服終わった泰明が戻ってきた。
 
 「あー、なつちゃんのことで頭がいっぱいだったから見事に忘れてたわ……」

 夏都はその言葉に「あのねぇー」といいそうになる。