正明と過ごした最終日の翌日に泰明が迎えに来た。
 夏都は不安気だ。
 5月15日の午前10時、泰明と過ごす1週間が始まりつつある。

 泰明は夏都を車に乗せ、自宅に向かう。
 緊張気味の夏都を見つめ、泰明は一言声をかける。

 「そんなに緊張しないで。」
 「はい……。」
 「しかないか。徐々に慣れてくといいよ。」

 泰明は笑顔で車を運転した。

 「もうすぐ家に着くから一旦荷物置いたら、オランダ坂に行こうか。」
 「オランダ坂?」
 「うん。一度でいいからなつちゃんと二人で行きたいと思ってたんだ。」

 夏都はキョトン顔だった。
 オランダ坂に行ったのは小さい頃、母親や妹たちと4人で行ったきりだった。

 ――――
 『夏都、ほらカステラよ。』
 『わーい。お母さんありがとう』
 『夏都は本当にカステラが好きよね。』
 『うん!』
 母親の優しい笑顔が脳裏によぎる。
 ――――――
 「なつちゃん、もう俺の家、着いたよ」
 
 車を降りると、豪華な戸建てだった。
 庭付きで大きな家だ。
 結納金の8割は泰明が負担したとはいえ、泰明の年齢で豪華な戸建てを買うのは相当稼いでいないと無理なのでは?と疑問がわく。

 もはや豪邸レベルだ。
 二階建ての温水プール付き。長崎の高い住宅街とはいえ目立つし維持費が大変なのでは?と疑問がわく。